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□嫁取物語
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この世界の中で、出会った直後に結婚を申し込まれた人が、一体何人いるのだろうか。

『嫁取物語』

「・・・もう嫌。流石にもう嫌だ・・・」

学生鞄を片手に大きなため息をついたのは、竹内かぐやという女の子。
かぐやはこの春、竹取高校の二年生になったばかりで、まだ新しいクラスや環境になれていない。
しかし、それ以上に大きな問題が、かぐやにはあった。

「あ、かぐちゃんだ!おっはよう!」

「・・・春兎君か・・・おはよう」

「あれ?どうしたの?いつも以上に元気がないよ?」

「その原因の九割以上が貴方たちのせいよ・・・」

重い空気を背負って歩くかぐやに声をかけてきたのは、幼い顔立ちをした桃色の髪の男の子だ。
男の子の名前は月城春兎(つきしろはると)と言い、かぐやが頭を抱えている人物のうちの一人である。

「他の四人は?」

「夏は寝坊で、秋はまだお弁当作ってる。冬は鏡と睨めっこしてて、滞兄はもう学校に行ったみたいだよ?」

「じゃあ、今朝は春兎君だけなんだ・・・良かった」

「えっへっへ。今日は僕がかぐちゃんを独り占めだね」

「あはは・・・」

元気がない笑いを春兎に返すと、かぐやは再びため息をついた。
どうせ、学校に着くと必然的にくっついてくるのだ。
ある、一人を除いて。
春兎たちがかぐやの元へとやってきたのは、かぐやが十六歳になった綺麗な満月の夜だった。
かぐやは、名前の通りかぐや姫―正確にはかぐや姫の生まれ変わりらしく、春兎たちは地球人として生まれ変わってしまったかぐやを連れ戻すため、嫁にもらいに来たらしい。
つまり、日本で語り継がれている竹取物語と逆の状態。
今でもかぐやは認めることを拒んでいるが、春兎たちは全員月の者らしい。
ちなみに、月城家は竹内家のお向かいにある、ちょっぴり大きめのお屋敷で、未成年男子が現在五人で暮らしている。
それでいいのか、日本の法律。
長男は十八歳の月城滞兎(つきしろたいと)で、次に四つ子の一番上であり見た目も中身も子供らしさが残る春兎(はると)。
次男であり、兄弟一元気な夏兎(なつと)に、三男で一番穏やか性格をしている秋兎(あきと)。
四男であり、一番現代人らしさがある性格の冬兎(ふゆと)。
月にはウサギがいるという迷信が存在していたような気もするが、月から着たという月城家の名前がこの状態なのだから、あながち間違ってはいないのではないかと、かぐやは最近思うようになった。

「ねえ、聞いてる?かぐちゃん」

「え?あ、ごめん。聞いてなかった。何?」

自分とあまり背丈が変わらない春兎の方を向き、申し訳なさそうにそう言うと、春兎は少し拗ねたように頬を膨らませる。

「俺たちの中の誰と結婚したいか、決まった?って聞いてるの」

「いや、だからそういうのはまだ早いっていうか・・・」

このやりとりは、かぐやが月城兄弟たちと出会った時から行われているやりとりだ。
ただでさえ月城兄弟は、良い意味でも悪い意味でも人目につく容姿をしているというのに、その人たちから出会ってすぐに求婚されたかぐやも、学校では既に有名人となっている。
拒絶こそはされていないが、一部クラスメイトから距離を置かれていることや、こっそり出来ているファンクラブなるものに、かぐやは目をつけられているのが現状だ。

「・・・俺じゃ、ダメ?」

しょんぼりと肩を落とし寂しそうにする春兎。
かぐやはその垂れた頭を撫で回したくなる衝動を、ぐっと飲み込んだ。

「だ、だから、私まだ学生だし、そういうことは全然考えたことがないから、ちゃんと考えたいっていうか・・・」

フォローと本音を混ぜ合わせながらそう言うと、春兎はそうだよね、とだけ呟く。
これではまるで私が悪人のようだ。
しかし、この程度でいちいち心を折られているようでは、月城兄弟に対抗することなど出来ない。
出会ってからの数ヶ月で、かぐやはそのことを学んでいた。

「あ、じゃあ私教室に行くから・・・」

「うん、またねかぐちゃん!」

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