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□歌ってよ
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「澪・・・どうしたの?早く歌いなよ」

私の背後で、録音した澪がボーカル担当の曲が流れている。
私の声と、背後で流れる曲と、澪の吐息と小さな声と、水音。
静かな一室に、聴こえるのはそれだけ。

「・・・り・・・・・つ、ぅ」
「なーに、澪?」

右手を澪の口内に入れる。
自然と澪の舌が指に絡まる。
澪を支配している。
そんな気分になった。

「―思い出、なんて要らないよ――――・・・・
これ、本当だな。澪」
「・・ん・・・・ふ」

相も変わらず澪は私の手を口から出そうと頑張ってる。
無理無理、無駄だよ。

「ほら早く、歌いなよ。次は大好きなふわふわ時間だ」

イントロが流れ出す。
澪は、私の手を出すことで一杯一杯で、曲なんて聴いてはいない。
手を口から出す。
私は何となく笑いが零れた。

「は・・・澪しゃん、ちゃんとお歌は歌おうね〜?」
「、律」

口ではそう言いつつも、歌えない様にキスで口を塞ぐ。

澪の苦しそうな吐息と、背後で鳴っている曲のメロディが重なる。
 苛立った。
歌っている様にも聴こえた。

もう澪に歌なんて歌わせないから。
歌ってほしくない。
その声を聴いて良いのは、私だけ。




end

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