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□時は早し…
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いつまでたっても消えない悪口に耐え切れなくなり、名前は朝食をお腹いっぱい食べることは出来なかった。



早めに部屋に戻りトリップしてきた時について来た鞄の中のカッターを取り出して思い切り左手首を切った。

いっぱいいっぱい切った。


血がいっぱい出て


涙がとまらなくて



手の左手首を切り続けて、血が床を汚しはじめた頃に部屋のドアがあいた。



私はそれにも気付かず切りつづけた。






血が私の手首、服や床を濡らし、血溜まりをつくった。











「名前!!何やってやがる!!!」





『!!!!!!』






名前はいきなりオッサンの声が聞こえ驚き、カッターを持っている右手の動きが止まった。





「……お前、またリストカットしたな……」


『………………』






私はオッサンを目の前にカッターで切り付けていた血まみれの左手を背中に隠した。

まぁ、床の血溜まりで今頃隠しても意味がないのだが……



涙でぼやけてオッサンの表情がわからない…

怒っているのか、それとも呆れているのか…もはや何も思ってないのか……


名前はオッサンにすてられるのだけは嫌だった。




「名前………なんでお前は……俺をこんなに悲しませるんだ……」



『……え…?』





オッサンは怒ってもなく呆れているのでもなかった。






悲しかったんだ………





私が悲しませていたんだ………






「お前なぁ……なんで……いつまで……リストカットに依存してるんだ………?」



オッサンの声が少し涙声になったのは私の勘違いだろうか?





「こんなに切って…こんなに血ぃ出して………痛かっただろ……?なぁ……?」




『オッサン…痛くないんだよ……全然……痛く、ないんだ……』





オッサンの顔は涙で全然見えないがオッサンの顔が微かに歪んだのがみえた。



「…ゴメン……ゴメンな………お前を助けてやれないでゴメンな…………」




『ど、して、オッサンが謝る、の………?』




「名前は悪口言われるのが一番嫌だったんだもんな………十年間過ごしてきたのに肝心なところで助けてやれないでゴメンな………」




オッサンは私をぎゅっと抱きしめて頭を何度も何度も撫でてくれた。



オッサンのぬくもりは好きだ…

暖かくて、


気持ち良くて、



安心する…………




まるで本当のお父さんみたいで………








名前は血まみれの左手を気にせずオッサンの背中にまわした。


それに答えてくれるようにもっと強く抱きしめかえしてくれた。













 
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