小説1
□めだ箱小話集
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とても幸福で、温もりに満ち溢れた夢を見た。
今の現実とは違う、その夢。
とても幸せな、その世界。
しかし最悪なことに、中でも僕がとても幸福だと感じた、善吉ちゃんとめだかちゃんと笑いあっていた、その場面で。
――は、と目が醒めた。
「『………』」
むくり、と起き上がる。
周囲を見渡せば、やはりあの夢の世界の、あの教室。
参ったなあ、二度とこの世界には来たくなかったのに。
そんな事をぼうっと考えていると、後ろから声がかかった。
「やあ、漸くお目覚めかい? 球磨川くん」
「やっぱり君かい、安心院さん。この趣味の悪い夢を僕に見せてくれたのは」
「おや、括弧つけないんだね。いや、「格好つけない」って言った方が良いのかな。君の質問に対しての答えはYESでありNOだ。
確かに僕は君にその夢を見せたけど、その夢を望んだのは君自身だからね」
「…そうかよ」
フイ、とあからさまに視線を反らせば、目の前に安心院さんがいた。
驚くけれど、まあいつもの事だ。
この人外は人を驚かすのが趣味なのだから。
「『趣味悪ーい』」 と括弧つけて言ってやろうかと考えたが、止めた。
どうせこの思考も、人外である彼女にはお見通しなのだから。
「そうだね、お見通しだよ」
「…やっぱりね」
「それはそうと、君が言うところの“趣味の悪い夢”の感想を聞かせて欲しいな」
「…どうせその感想も、僕が全く違う事を括弧つけて言おうとしてるのもお見通しなんだろう?」
「それは勿論。でも僕は君から聞きたいのさ。君自身の口から出た言葉をね」
全く、ムカつく女だ。
本当に、何もかもお見通しな、めだかちゃんとは違う意味で神様みたいに公平で無慈悲で全知全能な、閻魔大王みたいな女の子。
だから。
「…そうだね。ここから出たら、たっぷりと語らせてもらうよ」
嘘はつかない。
僕は嘘憑きではあっても、嘘吐きではないのだから。
一時だけでも、幸せでもう叶える事は出来ない、幸運で不運な夢を見せてくれたお礼に。
そしてこの夢の感想を、はじめて自分自身の為に行動している善吉ちゃんにも教えてやらなくちゃね。
それは、その行動は突き詰めれば全てめだかちゃんの為なのだと。
君は箱庭という、そしてめだかちゃんという籠から出られない、大空を見て翔んでみたいと憧れている、羽をもがれた鳥なのだと。
だから僕が、そこから飛び立てる術を君に教えてあげる。
君を縛る籠であるめだかちゃんと決別して、しかしそれでも籠(めだか)に未練を残す哀れな君に、教えてあげる。
籠(めだか)と共に生きるという、君の願いと言うにはあまりにも綺麗すぎて重すぎる誓いと共に。
それはきっと、君の道を照らす光になってくれるだろうから。
*
たぶん微妙に本誌ネタバレ。
選挙管理委員会室?で善吉に会う前にこんな事を考えていたら良いな。
「あまいあまい君だから」様にご投稿させて頂きました!