この子の七つのお祝いに
子守唄
「この子のわかき ててが握る紅差し指は禍福よ」

貴方の遺愛のぼんぼり粛然と 灯点して暗夜に濡つ 私と子と交錯する雨音に心頭 「散華と散り敷く涙も枯れた」
あれから幾年 貴方が残したちぃさぃ幸せ 髪締め乍ら 夜な夜なこの子の為にと 子守の唄を 口遊み たもとおる四肢
ふしどの灯りに ゆらゆら寂漠 天井踊って 眼下に破れ 飛び散る手足が頭についたり 炯々 いひひ と耳奥舐める
毎朝毎晩 舌掻きむしって 騒擾
反り返る
もぅいいかい もぅいいかい と笑む 稚拙な吐息で炙られても この子のために
うしろの正面だぁれ
白黒キマネの廃工場から流れる煙がこの子を包む 右手 左手 足 首 心音 蛇口に隠れた少女が飛び出し小さなこの子の姿に閃光 少しずつ食む
この 笑みも 心の埋み火 一切 誰にもやらぬ! 貴方が残した小さな幸せ守るために 白鶴 「溢れる汚水に片身を浮かせて!恥ずべき奴だ!」 ゲラゲラ讃える狐の団居に背を向け 唇噛みちぎり ぼんぼり抱えて慟哭
ああ 静かに流れる音が こだまして九十九折りなす 小さな貴方の手を引き 生きていく ひらひら 椿の散華 同じ重さの掌にそっと頬よせ 火を灯す
言祝ぎとした 白雨 消え入る
白黒キマネの廃工場から流れる煙が眩めき昇る 金切り声あげ大路に集まりばつこに散乱 縺れて不揃い 刻々次第に影絵となりて 化粧いた眼球親子に向ける 奥歯をならしてしたたる夫婦が しせきで息吹く
懐手でして足踏みする翁が 手遊びするおう(媼)に耳打ちしている
狐「ほらほら はやく 息 とめなくちゃあ!背中にしがみついて 首刈るぞ」
点鬼簿くわえた白髪少女が神木登って爪立ち絶叫 咽び この子 抱き締めた 狐のとれつは這いずり回って裂帛為い為いこの子を掴んだ
鳴咽
「嗚呼 この子だけは なくさぬように」
助けて!
女「耳 鼻 目 口 髪の毛一本誰にもやらぬ!」
狐「お前が望んだ幸せ ひとつも ひとつも 叶わぬ」 髪の毛むしって鳴咽 少女はもんどりうって笑う
老夫婦「隠してしまえよ この子が七つになるまで」
女「ああああ貴方!鯉のぼりが空に昇って行くまで!お願い!」
「この子に幸せに風が吹きますように」
ああ 貴方の足跡灯し歩く小さな背中を見て祈った この子の七つのお祝いに 小さな折り鶴ひとつ 水上から流す 幸せ込めて 貴方は風に舞う
明らみ差し込む光の尾が笑み 貴方の遺愛の灯りを消し去り 大路を掠めて悠然と舞い神の木連なる閑居に消えた 狐の堵列はいびつにくねって右顧左眄 互いに食い合う 時折八ノ字に笑みながら
おやすみよ すやすやと かわいいこ あなたは 目を閉じて ただすやすやと おねむりなさい
崩れた積み木の下で抱く狐色の子 逃げていく
神木から落つ 少女の顔ただれて泡吹き 金切り笑う 浅黄に染まった男と女は利休鼠の眼球こすって痙攣 劈く音して一瞥 先には 双眸を縫ったお狐様の行列が 股開く
もぅいいかい まぁだだよ もぅいいかい もぅいいよ
首転がる
「ああ この子が大きくなれば あなたと過ごした日々がまた」 瞳は刻んだ硝子の回想 空を泳ぐ鯉のぼりだけは知っていた

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