‡薄桜鬼・文処‡
□過去拍手文
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〜枝垂れ桃〜
うわぁ……………!
左之さんに
“いい所に連れて行ってやる”と言われ、お互いが非番の今日、この場所に連れて来てもらった。
「凄ぇ……枝垂れ桜?」
「いや、これは桃だってよ」
「桃?」
「枝垂れ桃ってのもあるらしいって千鶴がお千ちゃんから聞いて、教えてもらったんだよ」
「へぇ…枝垂れ桜は知ってるけど、枝垂れ桃は初めて見た!」
初めて見た枝垂れ桃に、俺は感嘆の声を上げた。
「たまにはこういうのを愛でるのもいいもんだな…」
――――暖かい風が優しくなびく中、枝垂れ桃に溶ける様な…赤色の髪をした恋人の、少し低くて耳に優しい……穏やかな春の風の様な左之さんの姿と呟きに見とれてしまう。
「…け……?平助?!」
「ぅわぁっ?!」
肩を揺すられ我に返り、左之さんの心配そうな顔がすぐ側にある事に気付き、思わず妙な声で返事してしまう。
「どうした?何見てたんだ?」
「えっ…その……」
何か照れ臭くて言いあぐねていたら、左之さんはふと振り返り……何か苦笑いしながら俺に向き直る。
「解った…あれか?」
…………へ?
何言ってんの、左之さん。
「お前はやっぱり花より団子かよ」
????
左之さんが何を言ってるか解らず、ヒョイと左之さんの向こうを見てみると…………
「じゃあ行くか?」
頭に手を起き、そのままその手が俺の右手を引っ張る。
「ち…違うって!」
「ん?腹減ってたんじゃねぇのか?」
「いや…減ってない事もないけどさ…」
「お前が見とれてたのは、あの茶店だろ?」
………この人、どんだけ俺をガキ扱いしてんだよ?
悔しいから……
―――左之さんが綺麗でみとれてたなんて言ってやんねぇ…
「勿論左之さんの奢りだよな?」
「5本までなら奢ってやるよ」
誰もいないのをいい事に、右手を掴んでいた腕は俺の肩を抱き寄せて歩き出した。
「そうそう…平助」
「んぁ、何?」
「枝垂れ桃の花言葉…教えてやろうか?」
そういって左之さんは俺の耳朶に唇を寄せて、あの低くて優しい声で囁いた。
―――私はあなたの虜です
「……だから平助と見たかったんだよ」
「///っ!」
真っ赤になる俺にニヤリと笑いながら耳に口付けた。
「枝垂れ桃より赤いぞ、平助」
「う…うるせぇよっ///」
自分でも解る位真っ赤な俺を笑いながら、左之さんは茶店に入っていく。
“俺も左之さんの虜になってた”
なんて…
絶っっっっっ対に言わないからなっ!!
(了)