‡薄桜鬼・文処‡
□過去拍手文
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〜櫻華の誓い〜
あーぁ………
昼食を終え、ボーッとしながら窓から見える景色に溜め息を付いた。
「どうした、平助」
一緒に昼食を食べた斎藤が、平助の様子に気付き声を掛ける。
「んー…桜、散って来たな…って思ってさ…」
学園の名物である桜並木で咲き誇った桜が散ってく様を見てたんだ…と続けた。
「…そうか」
頬杖付いて桜を見つめる平助と並び、斎藤も風に舞う花びらを見つめていた。
「桜は…散り際も潔くて…綺麗だな…」
「うん……」
斎藤の言葉にも上の空の平助。
―――左之さんと桜…見たかったな……
平助の恋人の原田は、この学園の教師。
新学期は色々と忙しいらしく、学園内以外ではなかなか逢えない。
それは仕方がない事…と頭では理解出来るものの、逢えない寂しさと花びらが散るもの悲しさが相まって、平助の気持ちは更に落ち込む。
「……ぅおっと!」
ポケットに入れていた携帯バイブに驚き、メールを確認する。
「……―――!!」
「ど…どうした?平助…」
見る見るニヤける平助に、斎藤が少し引いている。
「んー?何でもないよ♪」
……いや……明らかにおかしいだろ?
思いながらも怖くて何も言えない斎藤だった。
***************
「まだかなぁ……」
携帯で時間を見る。約束の時間を少し過ぎていた。
―――でも。
久しぶりに二人きりで逢える嬉しさが勝り、昼間受信したメールを見返す。
「悪ぃ……遅くなった……」
後ろから息を切らせ走りながら、原田が駆け寄って来た。
「遅ぇよ、左之さ〜ん」
拗ねた口調で言うものの満面の笑みを浮かべる平助に、原田は優しく頭を撫でる。
「………で?いい所に連れてってくれるってメール来たけど…どこ行くの?」
「ん?まぁ…とりあえず行くか?」
車に乗れと促され、不安ながらも助手席に乗る平助。
久しぶりに二人きりで会う事に何かドキドキしながら、運転する原田を見つめる。
その視線に気付くと優しい眼差しで見つめ返され、つい恥ずかしくて逸らしてしまう。
その様子を笑いながら見つめる原田。
あんなに逢いたかったのに…。
何を話していいか解らなくて、つい黙ってしまった。
***************
「着いたぞ、降りろ」
声を掛けられ、上の空だった平助は慌てて降りる。
「うわあぁ………!!」
目の前の景色に思わず感嘆の声を上げた。
満開を過ぎた桜の中で、風が起こる度に花びらが乱れ飛び…
桜花の嵐の中にいるかの様だった。
「凄ぇ………!」
「……間に合って良かった」
幻想的な景色に見入る平助の肩を抱き寄せながら囁く。
「昔からの約束だっただろ?…一緒にいる限り、いつまでも桜を見ようって……」
「あ…………」
――――覚えててくれたんだ。
遠い昔……
“新選組”と呼ばれ、その時代を共に駆け抜けた自分達が交わした約束。
『春には必ず桜を二人で見よう』
時を超え、同じ時代に生まれ変わった二人は再び出逢い恋に落ちた。
そして遠い昔に交わした約束を忘れる事なく果たしてくれる、変わらない恋人。
「もっと近くで見ようぜ」
自然と目頭が熱くなり俯く平助の指を絡めて繋ぎながら、桜舞う中を黙って歩いた。
「―――次に生まれ変わっても…こうやって桜、見ような」
静謐な世界の中、ただ二人きりで、いつまでも飽く事なく桜の乱舞を見つめていた。
前世から変わらない想いを胸に抱いて、現世を渡り、来世も一緒だと誓いながら………
(了)