‡捧物処‡

□大切なぬくもり
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今は週末、金曜日の夜。
左之も平助も土日と予定がなく、久々に二人で過ごせる筈だったのに……




「左之さん勝手すぎ!」

「あ?お前うるせぇよ…」

「あっそ?……うるさいなら帰るよ」

「……勝手にすりゃいいだろ」



切っ掛けは大した事ではなかった。
夕飯の後、部屋でまったりしていた時に平助の携帯が鳴った。
大学の友達からのメールだった様で、すぐに返信していた。

が……
それが何度か続いた時に、左之が嫌味を言った。
左之にしてみれば、なかなか一緒にいられない自分達が、漸く週末を二人で過ごせる時間を無駄にしたくない…
それと……ほんの少しの嫉妬だった。

しかしそれに平助はイラッとしてしまい、嫌味で返してしまう。
後は売り言葉に買い言葉で、結局は喧嘩に発展してしまい、平助はそのまま出て行ってしまった。



「ちっ……」

社会人の左之と大学生の平助。
なかなか会える時間がなく、ずっと悪いとは思っていた。

今週の金曜日の夜から日曜日まで平助のバイトが休みと聞き、死ぬ気で手に入れた時間。
左之は久しぶりに平助と過ごす今日の日を、本当に楽しみにしていた。

なのに………
平助が自分以外と接触するのが嫌で嫌で……
つい嫌味を言ってしまった…。
――――大人げなさすぎなのは解ってる。
自分が謝るのが筋なのも…。
でも……
二人の時間を楽しみにしてたのは自分だけだったのか?
どんだけ仕事して手に入れた時間か………
そう考えると、素直に謝る事を躊躇ってしまう。


*************



「―――くそっ!」

勢いで飛び出してしまった平助。
忙しすぎる恋人と過ごす週末を、凄く楽しみにしていた。
自分の休みと左之との休みが重なる事が、最近は全然なかった。
その休みを得る為に、左之がかなり無理していたのも知っていた。
だから…
友達からの連絡も全拒否するつもりだったのに。

友達からのメールの内容が他人事ではなく、つい返信していた。

………確かに左之さんにすりゃ、気分悪いよな……。
俺が謝れば………
しかし………
“帰る”と言った時…止めてもくれなかった。
今日を楽しみにしていたのは自分だけ??
そう思うと、素直になれなかった。


*************



「はぁ……」

煙草に火をつけ、見る気もないテレビに視線を向ける。
平助が帰ってから3時間。
もう限界か………。

携帯を手に取り、平助に電話をかけた。

♪♪〜


………………は?
近くから着信音………。


平助……
荷物全部置いていってんじゃねぇか?
財布や鍵もここにある………?
あいつ…帰っても部屋入れない…?
この寒い夜、自分の部屋にも入れず、財布もなく、携帯もない……

――つまらない意地を張ってる場合じゃない…
居ても立っても居られなくなり、車のキーを取り玄関へ向かう。




「うわっっっ!?」
「おっ……?」

玄関を開けたと同時に、平助の叫び声が聞こえた。

「平助??」

「あ……」

寒い中歩いてたのは一目瞭然だった。


「左…之さ…ん…ご…」

カタカタと震える体で謝ろうとする平助の腕を取り、玄関を閉める。


「……取り敢えず風呂入ってこい」

「え…」

「いいから入ってこい。風邪ひくだろーが」

何か言いたげな平助をバスルームに押し込める。


俺が早くに謝っていたら………
平助に寒い思いさせずに済んだんだ……
恋人に寒い思いをさせた自分を責める。


*************


「……あったかい………」

冷え切った体を湯船に沈める。
家に帰る途中、週末の為かやたらと幸せそうなカップルとすれ違う。
本当なら自分も今頃、左之さんと過ごしていた筈なのに……
やるせない気持ちになりながら、漸く家に着く。

「っと………あれ…?」

俺…………手ぶら???
カバンごと忘れてきた???

「マジかよぉ…………」

自分の短気さを嘆く。

友達の所でも行くか……
誰か捕まるだろう…………



「寒っ…………」

防寒はしてるものの、夜はかなり冷える。
久々のお泊まりでウキウキしていた数時間前と違い、気持ちが沈んでしまってるからか余計寒い。


――――誰んち行こうかな…。
何も考えずに歩いていて…
気付いたら………
左之さんの部屋の前だった。

あれ??
俺なんで左之さんちに???
無意識に…ここに来てた?



――――俺…やっぱり…。
左之さんといたい………。

意を決してドアノブに手を掛けた時、勢いよくドアが開き、飛び出して来た左之さんとぶつかりかけた。
………謝らなきゃ。

でも冷えきった体で上手く口から言葉が出ない。

左之さんは…
俺を家に招き入れてくれた。

何か……心が……
暖かくなった…………。
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