‡捧物処‡
□惚気に御用心
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「………ったくあいつら…」
爽やかな朝の光が降り注ぐ縁側を、眉間に刻まれた皺を更に深くしながら歩く土方の目の先に、いつも豪気な新八がウンザリした顔で座り込んでいるのを捉えた。
「どうした、新八」
「あ…あぁ土方さん…何かあったのか?眉間の皺が取れてねぇけど」
「まぁな…お前もどうかしたか?」
「昨夜なぁ………」
深い溜め息と共に出た新八の言葉に、土方も同意するかの様に何度も頷く。
「おめぇも大変だな……」
「解ってくれんのは土方さんだけだよ…」
同じ憂いを抱える二人は並んで縁側で話し出した。
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それは昨晩の話。
内密の仕事で、土方は斎藤を自室に呼んだ。
「副長、お呼びですか?」
「おぅ斎藤か?入ってくれ」
「はい。失礼します」
いつもながら折り目正しい奴だ…と障子に目をやると……
「どーも、土方さん」
「……何しに来やがった、総司!」
斎藤の背後から、呼んだ覚えのない総司がニコニコしながら入って来た。
「何しにって…。僕が一くんといる時に土方さんが一くんを呼ぶから付いて来ただけですが?」
「総司っ!俺は斎藤に…」
「すみません副長…。暫し時間を頂けませんか?」
土方の怒りを何とか収めるべく斎藤が総司に向き直る。
――ここは俺が怒鳴るより斎藤が諭した方が、総司も聞く耳持つだろう。
土方は成り行きを見守る事にした。
「総司…今は副長から呼ばれたんだ。だからあんたは大人しく部屋で待っていてくれ」
「えー?せっかく明日は二人とも非番だから、一くんとゆっくり過ごせると思ったのに…」
………何気にサラッととんでもない事を言うな、総司の奴…。
「総司、副長の前でそんな事…」
「いいじゃない、これ位。僕達の邪魔する土方さんが悪いんだからさ」
「…………総司」
余り聞く事のない低いトーンの斎藤の声。
流石の斎藤も、総司の我が儘にキレるのか?
と、冷めたお茶に口を付けながら思う土方の耳に……
「……副長の用事は適当に終わらせる。その後はお前をたっぷり鳴かせてやるから大人しく部屋で待て」
!!!
予想の範疇を遥かに超えた斎藤の言葉に、土方は豪快にお茶を吹いてしまった。
「……一くん、本当に?」
「あぁ、総司に嘘はつかん。これ以上無駄な時間を過ごしてはいられぬ故、早く部屋へ帰れ」
「うん…解ったよ、一くん。早く帰って来てよね?」
先程とは打って変わった態度の総司は、上機嫌で土方の部屋を後にした。
「……お待たせしました、副長。して用件は?」
「………もういい!さっさと部屋へ帰りやがれぇぇぇ!!!」
濡れた着物を手拭いで拭きながら叫ぶ土方の絶叫が、真夜中の屯所に響き渡った。
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「そりゃあキツいな…ていうか、斎藤が鳴かせる方なのか…」
「おい…気にする所はそこか?」
隈が浮いた目で新八を軽く睨む。
「で?おめぇの方は…」