‡捧物処‡

□山崎くんの受難
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「やっまざきく――――――ん!!」



――――来た。
今日はどんな話しなんだ………

溜め息が出るものの、相手は幹部。
無視する事は出来ない。


「山崎くん、入るよー?!」

――俺は留守です――

言いたい言葉を飲み込み在室を告げると、同時に障子を開けて転がり込んだ藤堂さん。


「おっ邪魔っしまぁす…って山崎くん、何か険しい顔してね?」

「いえ…気のせいです…所で何かありましたか?」

まずい…顔に出てたか?と一瞬思ったものの、直ぐに平静を取り戻し、藤堂さんに来室の理由を問う。

「あー、あのね?畳返し教えてくんね?」

「はぁ…?」

「あれ凄い威力ありそうじゃん?早く教えてくれよー?」

…………何故に畳返し?


「それは構いませんが…突然どうしたのですか?」

「んー?………左之さんに畳を食らわしてやりたくってさ…」

………………はぁ?


「左之さんは男前だし優しいし、強いし槍持つ姿は超絶カッコいいし…」

………惚気なら余所でして下さい。

「だから仕方ないの分かるけどさ…?…だからって……」

………嫉妬ですか。



………心で溜め息をつきつつも、俯きながらの年齢不相応の可愛らしい拗ね方に、つい甘やかしてしまう自分がいる。


「解りました。では……」

「山崎―――――!!平助来てねぇか???」

ドタドタと激しい足音を立てながら、障子が外れる勢いでスパーンと音を立てて開けられた。


「!?」

「左之さん??」

「……やっぱりここか」

肩で息をしながらズカズカと入ってくる原田さん。


「な……何しに来たんだよ??」

「何って…お前を迎えに来たんじゃねーか…」

「い・や・だ!俺は山崎くんと鍛錬するんだかんな?」
 
………畳返しは鍛錬ではないかと。

「あ?山崎と…?」

睨まないで下さい。俺はどちらかと言うと、とばっちりを喰らってます……


「お…俺…山崎くんに畳返し教えてもらって……俺のみたらし団子食った左之さんに…仕返しするんだ………ッッ!」

…………みたらし?

「お…俺が左之さんと食おうと思って買ってきたの……一人で食った……だから………」

そんな事の為に畳返し……


「っ…すまない!」

原田さんが藤堂さんに頭を下げる。
普段は豪気で短気な原田さんも、藤堂さんには弱いらしい。


「さ、左之さん?頭上げろよ!」

豪快な謝罪は藤堂さんにも予想外だったらしく、急にオロオロしだした。


「お前が俺と食べると楽しみにしていた団子を……俺は…」

「左之さん…」

「これはもう、腹を切って詫びるしか……っ」

ははははは腹を切る??
ここで切られたら後片付けが……
いや問題はソコではなくて…



「ごめん、左之さんっ!左之さんが死んだら…俺、生きて行けないっっ!だから切腹は止めて!!!」

「っ…平助…」

「左之さん、今日非番だろ?今から団子買いに行こ?」

「それで許してくれるのか?」

「うん!」

「じゃあ早速買いに行くか?」

「俺、三色団子も食いたい!」

「あぁ、好きなだけ食え」

――…お願いですお二方。
ここは俺の部屋です。見せつけないで下さい。余所でやって下さい………。


「あ、山崎くん。てな訳で今日は畳返しはいいや」

「邪魔したな、山崎」

二人仲良く並びながら出て行った障子が外れた部屋に、魂の抜け出した俺が残る。


一体あのお二方は何なんだ?と言うか、藤堂さんのあの惚気は何だったんだ??



ポンと肩を叩かれ振り返ると、憐れみに満ちた瞳の副長が立っておられた。

「……お前も苦労すんな」

尊敬する副長の優しい言葉に、思わず泣きそうになる。

「あいつらは、何だかんだとお前を頼りにしているらしい。…悪いがこれからも頼む………」

――副長のお言葉、良く解ってます。



解ってますが…………っ





毎日どちらかが厄介事を持ってくるのに……



きっと俺は、何時まで経っても慣れそうにありません……







(了)
 
 
 
 
→ あとがき&お詫び
 
 
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