誓いの光

□第1話:気弱な転校生ヒトミ
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「少し遅れてしまってごめんなさい」



前に立ったアンリは申し訳なさそうに言う。
だが生徒達にとってはアンリが遅れた事よりもこれから現れる転校生の事の方が重要だ。
今か今かとそわそわして転校生の登場を待ち侘びている。
わかりやすい生徒達の反応にアンリは苦笑を隠せなかった。
しかし物事には順序というものがある。



「皆さん、おはようございます!」
「「「おはようございまーす!」」」



挨拶をすれば更に元気な挨拶が返ってくる。
いつも元気な挨拶は転校生が来るという興奮からかいつもより一段とテンションが高かった。



「昨日お話した通り、新しい仲間を紹介します!」



教室に静けさが広がる。
だが次の瞬間一気にざわざわと騒がしくなった。
そして次には矢継ぎ早の質問が飛び交う。



「男?女?どっち、どっち!?」
「可愛い?カッコいい?誰か有名人に似てる?」
「しーずーかーに!見ればわかるから」



予想出来た騒がしさなのでアンリは冷静に生徒達を静かにさせる。
そして静かになるとアンリは教室の扉の方に目を向けた。




「転校生さん、入ってらっしゃーい!」




扉がゆっくりと開く。
生徒達の視線は転校生の姿を見ようと一点に集中する。
入ってきたのは少女だった。
少女は恐る恐るといったように入ってきて無数の視線に思わず顔を強張らせる。
そして戸惑いつつ目線は下に向けつつ教壇の前に立つ。



「ポケモンレンジャーになる為にここ、アルミア地方に1人でやってきたそうですよ」



アンリの紹介に少なからず生徒達は驚いた。
なぜなら目の前の少女はとてもポケモンレンジャーになりたがるようには見えなかったからだ。
身体つきは小柄で顔は可愛らしいという表現がピッタリ。
少し内気そうで、か弱い印象を受ける少女だった。



「まずは自己紹介ね。クラスの皆に名前を教えてあげて下さい」
「…っ……。」



自己紹介を促され少女は口を開こうとする。
しかし、少し下向きだった目線は顔を俯かせる事で完全に下になってしまった。
そしてしばらく沈黙が続く。
先程までテンションの高かったクラスは段々と気まずい雰囲気に包まれる。



「えーっと……、ど、どうやら緊張してしまっているようね。
転校生さんはヒトミさんって言うそうです。皆、しっかり覚えてね。入学テストではなかなかの成績だったそうよ」



見かねたアンリは仕方なく話を進める事にした。
ヒトミはかなり緊張してしまっているらしくずっと顔を俯かせたままだった。
なんとかフォローを入れつつ話しているとアンリは二人の少年に目を向ける。



「……ダズル君?何ニヤニヤしてるの?そしてハジメ君?居眠りは止めましょうね?」



生徒達はアンリの後ろにほんの少しの黒さが見えた気がした。
最も隣にいたヒトミには見えなかったようだ。
アンリに注意されダズルは慌てて顔を引き締める。
ハジメは怠そうに起き上がっただけだが……。



「ところで、ヒトミさんの机だけど……、そこのハジメ君の隣を使って下さいね」



アンリにそう言われヒトミは黙って席に着いた。
その間も座ってからもヒトミはずっと俯いていた。
ハジメは一瞬ヒトミに目を向けその後は外を眺めるだけだった。




「はい。これでもう転校生とか関係なし。みーんな、私の自慢の生徒達です。」



ヒトミが席に着くとアンリは空気を変えるように一つ手を叩いた。
そして優しい笑みを浮かべる。




「ねえ皆……、レンジャーやオペレータやメカニックに絶対なろうね!」
「「「イエーーーッ!」」」




アンリの言葉に元気よく返事する生徒達。
そんな生徒達を満足そうに見やるアンリ。
ヒトミはそれを半分の驚きと半分の羨望で見ていた。
そんな空間に馴染めていないのは自分だけ……。
そう思っていたヒトミだが実際は違った。
ヒトミの隣にいる少年、ハジメもただそれを見ているだけだったのだ……。



 
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