誓いの光

□第5話:ドキドキ!?肝試し(中編)
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「げ〜、いつこんなのセッティングしてやがったんだ?」



まず最初に向かったのは自分達の教室。
そこでは大量の箱が置かれていた。
異様な教室の様子にハジメは眉間に皺を寄せる。



(そう言えばリズミちゃん、放課後予定あるって……)



ヒトミがそんな事を思い出している内にハジメは先に進んでいく。
そのままハジメは教室のあちこちを見て回る。
どうしたら良いかわからずヒトミはオロオロしたままハジメを見ていた。



「やっぱりねぇか。まぁ、こんなあからさまに置いてある時点でこの中しかねぇよな」



この中、とハジメが視線で示した先には教室に不釣り合いな数個の箱。
ヒトミもずっと気になっていたが蓋はない。
ハジメも軽く叩いたり箱をひっくり返したりして探っている。
だが普通に開けられそうにはない。
という事は……。



「ビッパをキャプチャして壊すしかねぇか」
(や、やっぱり……!?)



昼間の事を考えるとどうしても萎縮してしまう。
このままではハジメの足を引っ張る事になってしまう。
その思いが余計にヒトミを不安にさせた。



「とっとと終わらせるぞ」
(ど、ど、ど、どうしよ〜!)



ヒトミの動揺に気付いてないのか気にしてないのか……。
ハジメはさっさと教室を出ていく。
1人きりになってしまう方が恐ろしく慌てて後を追うしかなかった。










「んじゃ俺はこっちのビッパをキャプチャするからお前はあっちな」



無理と言える筈もなくヒトミは小さく頷く。
目に見える範囲にいる事は一安心だ。
だが、上手くキャプチャ出来なければすぐにわかってしまう。



(い、急いでキャプチャしなくちゃ……!)



ハジメならあっという間にキャプチャしてしまうだろう。
足を引っ張らない為にはヒトミも早くキャプチャするしかない。
しかし上手くいかず焦りばかりが募る。



(どうしよう、どうしよう!)



何とか囲もうとしてもビッパの身体に当たったり床にぶつけたりでまともに出来ない。
頭の中がぐるぐるしてくる。
ハジメは今のところ喋らないヒトミを気にする素振りはない。
乱暴でも他の人に対する態度と変わらなかった。
それはリズミとはまた別の安心をヒトミに与えた。
だけどこんな調子では確実に嫌われる。
そう思い焦れば焦る程手が震えてキャプチャ出来ない。






「……い、おい!ったく聞いてんのか、落ち着けって!」
「っ!?」



夢中になり過ぎてハジメの声も姿も認識出来ていなかった。
しかも怒鳴り声と共にスタイラーを持つ手を握られた。
突然の事でその瞬間、ヒトミは頭の中が真っ白でパニックになる。
触れた部分が熱く心臓の鼓動が今までにないくらい煩い。
だがハジメの呆れた様な溜め息で一気に心が冷えた気がした。



(完全に嫌われた……。もうダメだ……)



自分の情けなさに視界が滲んでくる。
これ以上鬱陶しがられるのが嫌で俯く。
でも更に困らせてしまうと思いまた頭の中がぐるぐるしてきた。
肝試しの前よりも逃げ出したい気持ちになったその時……。



「お前なぁ、あんなに焦ってキャプチャなんか出来るかよ」
「……?」



予想していなかった穏やかな声。
思わず顔を上げると呆れてながらも怒りや嫌がっている様子は見えないハジメの表情。
その瞬間今まで強張っていたヒトミの肩から力が抜ける。



「やらなきゃって気持ちが前に出過ぎなんだよ。そんなんでポケモンと心を通わせられる訳ねぇだろうが」
(……心…)



キャプチャとはポケモンをディスクで囲めば出来るものではない。
自分の心をポケモンに向けなくちゃいけない。
ちゃんとわかっていたつもりで全くわかっていなかった。



「………」
「ビパー?」



ヒトミはビッパに視線を向ける。
2人の会話を理解出来ない様で小さく首を傾げる。
その時スッとハジメのの手が離れる。



「焦る必要ねぇから落ち着いてやれよ。お前、筋は悪くねぇんだから」



一瞬悩んだ後、ヒトミは力強く頷いた。
そして再びビッパと向き直る。
まだ不安や緊張が抜け切った訳ではない。
だが頭の中には先程のハジメの言葉がしっかりと残っている。
目を閉じ軽く深呼吸する。
そして……。



(お願い……!)



ビッパの事を考え心を通わす事だけに集中する。
さっきの失敗が尾を引いているのか少し動きが危なげだ。
しかし段々と落ち着きそのままビッパを綺麗な円で囲みキャプチャする。
そして次の瞬間ラインがビッパの身体を包んだと同時に光を放つ。
それはそのポケモンをキャプチャしたという証。
ハジメが珍しく少し興奮した声をあげる。



「やっぱやれば出来んじゃねぇか!やったな!」
(で、出来た……?私が……?)
「ビパ〜♪」



目の前で起こっている事態を実感出来ない。
ハジメが軽い力で背中を叩く。
傍に歩いてきたビッパが足に擦り寄る。
ヒトミは沸々と心の奥から湧き上がってくるものを感じた。



(や、やった、出来た……)



徐々にヒトミの顔に笑みが綻んでくる。
やがてそれは抑えきれないぐらいのものになる。
そして無意識にヒトミは口を開く。






「ありがとう、ハジメ君!」
「えっ」
「ぁ……」




嬉しさのあまり口から零れ出た言葉。
それはずっとハジメに言いたくても言えなかったもの。
ハジメの驚いた声と表情に気付きヒトミは一気に顔に熱が集まるのを感じた。
しかしその次には別の考えが過ぎる。
今まで何も言わなかった分、どうしても不安が強まる。
ずっと喋らなかった癖にとか、こんな事ではしゃぐなんてとか言われないだろうか。
だがヒトミの予想に反し突然ハジメが笑い出した。




「くっ、あっはははは!お前、顔真っ赤!恥ずかしがりにも限度があるだろ!」
「ぇ、あ……、…ぅ……」



不機嫌そうな表情しか記憶になく怖い印象だったハジメ。
でも今は打って変わって無邪気な子供っぽい笑顔を見せている。
その笑顔になぜかさっきと違う熱が上がった気がした。



(な、なんでこんなに熱いんだろう……?)
「あ〜、面白ぇ……!しかしお前、普通に喋れたんだな」
「えっ!あ、その……」
「ビパッ!」
「ビパー!」



ハジメに笑顔を向けられてヒトミは思わずどぎまぎしてしまう。
するとビッパ達が対抗する様に強く鳴く。



「あ、ご、ごめん」
「別にお前らの事を忘れてた訳じゃねぇよ」



ヒトミは慌てて謝りハジメは苦笑しつつフォローする。
忘れかけてたが今は肝試しの真っ最中。
そしてスタイラーを見つける為にビッパ達をキャプチャしたのだ。



「んじゃ、行くか」
「あ、うん!」



教室に戻るハジメを慌てて追いかける。
でもその距離はさっきよりもずっと近付いた。
なんとなくだがヒトミはそう感じた。



 
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