誓いの光

□第3話:キャプチャ勝負開始
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勝負が始まりハジメ、ダズル、アカリの3人はビッパをキャプチャし始める。
一方、ヒトミはというと……。




(ええと……、ええと……)




入学テストと同じようにすれば良いとわかってはいるがパニック状態で緊張も重なり上手く動けなかった。
やっぱり自分には無理だと思っていた時、ヒトミは視界の端で見えたビッパの異常に気付く。
そのビッパはビニールが飛んできたらしく視界が塞がれた状態でパニックになり走り回っていた。
そしてそのビッパは前が見えないまま柵の方へ走っていき……。




(危ない……!?)




そう考えるよりも先に体が動いた。
ヒトミは素早くビッパをキャプチャし落ち着かせた。
ビッパは柵手前ギリギリで止まりその時にビニールも飛んで行った。
慌ててビッパに駆け寄るが怪我はなかったようでヒトミはホッとする。
そしてそのままビッパを優しく撫でていた。






「これでビッパは全部ね」



リズミは満足そうにビッパ達を眺め撫でている。
そしてそれぞれがキャプチャしたビッパの数を数える。



「結果は、ハジメは4匹。ダズルとアカリは2匹。ヒトミさんは1匹ね」

「ハジメの圧勝かよ〜!」
「くっそ〜!アカリが邪魔したせいだ!」
「はぁ!?人のせいにすんなよ!そう言うダズルだってあたしの邪魔しただろ!」
「言い掛かりつけんなよ!」
「それはダズルだろ!」



「……どっちもどっちだっつーの」




ハジメは呆れた様子を隠しもせず2人を見てる。
ヒトミはどうしたら良いかわからず2人を交互に見てオロオロしていた。



「ハジメ君、ダズル君、アカリちゃんにリズミちゃん。それと新しいあなたも。
皆、ありがと。おばさんホッとしちゃった」



世話焼きおばさんは嬉しそうにヒトミ達を見まわした。
そして次に申し訳なさそうにビッパ達を見る。



「それからビッパのリーダー、ごめんなさいね。おばさん、ついうっかりしっぽ踏んじゃって。
お詫びにいつもより美味しいエサをあげるから。皆、こっちいらっしゃい」



そう言って世話焼きおばさんはもう一度ヒトミ達にお礼を言った後、ビッパ達を引き連れて行った。
それを見送っているとダズルがヒトミの方を振り返る。



「お前のキャプチャ、65点ってとこだな。……だけどさ、正直言ってちょっとだけ驚いた。
お前、習ったばかりにしてはまあまあやる方かもなー。ヒトミって言ったっけ?」
「ダズルったら名前ちゃんと覚えてたんじゃない!」
「素直じゃないよなー」
「いつもの事だけどな」
「うっせぇ!アカリ、ハジメ!」



キャプチャ出来たのはたった1匹だ。
でもダズルが誉めて名前を覚えていてくれた事にヒトミは驚き、照れてしまう。
あの時は本当に無我夢中だったのだ。
あの距離でそんな事情を知っている者などいないだろうがヒトミにはたまたまとしか思えなかった。
大人しいならともかくあんなパニックになっているポケモンをキャプチャ出来る程自分に力はない。
それはハジメ達と比べても明らかだ。



「あっ、そうだ!まだ案内してない場所があったんだ!」



そこまで考えてリズミの言葉に思考は現実に戻される。
そう言えばそんな事を言っていたな、とヒトミは先程までの事を思い出す。
ビッパの騒動で完全に頭から抜けてしまっていた。



「【ふなでのひろば】か?」
「そう!」
「だったら俺も行く」



間髪入れずに言ってくるダズルにリズミとアカリは苦笑していた。
ヒトミは【ふなでのひろば】がなんなのかはわからなかったが行けばわかると結局何も言わなかった。
リズミの誘いでハジメとアカリも同行する事になった。
ハジメはかなり渋々(嫌々?)だったが……。





「ここがふなでのひろば。来月ここで【青空スクール】っていう特別授業があるのよ。
そこに建っている記念碑は【誓いのオブジェ】っていうの」
「あたし達全員、この場所がお気に入りなんだ」
「ダズル、たまにここで寝てるしな〜」
「ハジメだって寝てたりするだろ!」



辿り着いたふなでのひろばは向こうの方に海が見え、とても綺麗な場所だった。
その中でもヒトミが目を惹かれたのは誓いのオブジェという記念碑だった。



(わぁ……)
「この場所で仲間と固く誓い合った事は必ずホントになるって……。ラモ校長が話してくれた」



(…仲間と……)



なぜかはわからないがヒトミはオブジェから目が離せなかった。
一目見てこの場所が気に入った。
そしてリズミの話を聞いてヒトミはますますここが素敵な場所に思えた。
いつか……、仲間とこの場所で誓う事が出来ればどれだけ良いか……。
自分には縁のない事のように思えたがヒトミはただぼんやりとそう考えていた。



「はいっ!これでリズミのわくわくスクール案内はお終いでーす!」



リズミの声に意識が現実に引き戻される。
そこでヒトミは初めて自分がボーっとしていた事を自覚した。
そして慌ててリズミに視線を戻す。
見るとリズミは満面の笑みをヒトミに向けていた。




「ヒトミさん!これからずっとよろしくね!」
「あたしもよろしくな、ヒトミ!3人、仲良くしようぜ!」




アカリも嬉しそうな笑みを向けてくる。
2人の眩しい笑顔にヒトミは居心地が悪くなるくらい照れくさくなる。
するとダズルも入ってくる。




「おいおい!リズミとアカリはどうでも良いから俺とハジメの方をよろしく!」
「勝手に俺の名前を入れてんじゃねぇよ!」




ヒトミは心の中に温かいものが溢れていくのを感じた。
彼らの気持ちが嬉しい。
ちゃんと言葉にして伝えたい。
そう思って開こうとした口は聞こえてきた鐘の音に再び閉じられる。



「鐘が鳴ったから教室に戻らなくっちゃ」
「だな。それにしても……」


「「ダズルってほんとに調子良いんだから(な)!」」



2人の見事にハモった言葉にダズルはポカンとする。
その顔を見てアカリとリズミは笑いながらヒトミの手を取って教室に向かった。
ハジメも笑ってそのままダズルを置いて教室に向かっていきヒトミはそれを呆然と眺めていた。




後悔しないわけではなかった。
喋る事に何か問題があるわけではない。
でも上手く喋れない理由は簡単に分かった。
伝えなきゃと思えば思う程出来ない。
だがいつかきっと緊張せず話せる。
直感的なものだが彼らを見てるとそれは決して間違いではないように思えた……。



 
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