誓いの光
□第4話:ドキドキ!?肝試し(前編)
2ページ/2ページ
「おまたせ」
ヒトミは目の前の光景にどうしたら良いかわからなかった。
部屋の外にある生徒達の集まり場であり食堂でもある場所にはなぜかクラスメイト達が集っていた。
そして突然思いついたように外に行こうと言ったリズミは最初から来る事を予定していたようだった。
「リズミ、遅いぞ!」
リズミとヒトミの登場に真っ先に反応したのはダズルだった。
怒っているダズルの声にヒトミは驚き少し体を跳ねさせた。
そしてそんなヒトミに反応したのはダズルの隣にいるアカリだった。
「ダズル!お前の声でヒトミがビビってるだろ!」
「な、なんだよ……。アカリの声だってそんな変わんねぇだろ!」
アカリの指摘にダズルは一瞬たじろぐがすぐに勢いを取り戻す。
そしてそのまま2人は口喧嘩を始めてしまう。
(ど、どうしよっ……!私のせい?)
ヒトミは自分のせいかと焦る。
しかしそんなヒトミの内心に気付いたのかリズミが声を掛ける。
「気にしないで。あの2人って幼馴染なんだけどしょっちゅう喧嘩してるの」
「飽きもせずよくやるぜ……」
後ろからの呟きが聞こえヒトミは振り返った。
そこには椅子に座り呆れたようにダズルとアカリを見るハジメの姿があった。
(ハ、ハジメ君、だ……!?)
ヒトミは思わず固まってしまう。
あの時、教室で聞いた怒鳴り声やその他の態度からハジメはヒトミにとって苦手な分類に入る事は容易に想像がついた。
しかし、ヒトミは確かに教室での質問攻めの中からハジメに助けられた。
その為ハジメはただ怖い存在ではないとヒトミは思った。
だからこそヒトミはお礼を言う事が出来なかった事を今日一日ずっと気にしていたのだ。
「……なんだよ」
「っ!?」
そんな事を思っていたからかヒトミはハジメの顔をじーっと見てしまっていた。
するとハジメに視線を向けられ慌てて顔を横に振る。
そんなヒトミにハジメは訝しげな表情をするがそのままヒトミから視線を外してしまった。
(あっ……)
せっかくお礼を言うチャンスだったのに逃してしまった事にヒトミはへこんでしまう。
ハジメはヒトミの事など全く気にも留めていないだろう。
だがヒトミはハジメが助けてくれた事が心から嬉しかったのだ。
例えハジメ自身が本当にただ騒がしかったから怒っただけなのだとしても、だ。
それだけに言いたい事も言えない自分がヒトミは嫌になってくるのだ。
ヒトミがどんどん自己嫌悪に陥ってきたその時、リズミの声が響いた。
「あぁ〜もう!これじゃあいつまで経っても話が進まないでしょう!ダズルもアカリもいい加減にしなさい!」
「だってアカリが!」
「だってダズルが!」
「い・い・加・減・に・し・な・さ・い」
「「はい……」」
リズミの何か含みのある笑顔に真っ青になって大人しくなったダズルとアカリ。
ちなみにリズミの笑顔の意味に気付いていないのはヒトミだけだった。
ヒトミは首を小さく傾げハジメは大きく溜め息を吐く。
「?」
「はぁ……。おい、いい加減に何の用で呼んだのか教えろよ!」
「落ち着きなさいよ、ハジメ」
「そうだよ。今から説明するから」
「ハジメは気が短いんだよなぁ」
「ぶっ飛ばすぞ、ダズル」
「うわっ、ひっでぇ!!」
ちっとも進まない話に苛立った様に乱暴に椅子から立ち上がるハジメ。
その怒鳴り声にヒトミは体を硬直させる。
どうやらヒトミ同様ハジメも何も聞かされず連れて来られたらしい。
先程より一層不機嫌さが表に出ている。
(こ、怖い……)
ヒトミは内心泣きそうな位怯える。
だがリズミはハジメの様子を気にも留めず一つ咳払いをし高らかに宣言した。
「それではこれからヒトミさん&ハジメ歓迎肝試しスタートでーす」
(えっ……)
「「「声を潜めてイエーイ」」」
「はぁ!?」
リズミの声にヒトミとハジメを除く全員が楽しそうに声を揃えた。
ハジメは思わず驚きの声をあげヒトミも思考が停止し動けなかった。
今さっき発せられた言葉を理解する事が出来ないのだ。
(き、肝試しって……。肝試しって……!?)
ヒトミは体から血の気が引いていくような気がした。
お化けにしても、怒鳴り声にしても、ヒトミは怖い事が大の苦手なのだ。
だがそんなヒトミに周りはお構いなしに話を進めていく。
「ちょっとした度胸試しだよ。あたし達も前にやったし大した事ないって」
「だけどお前ってなんだか怖がりっぽいよな?」
「それをダズルが言うのかよ」
「な、なんだよ!アカリだって大した事ないとか言ってめちゃくちゃ怖がってただろ!」
「な!?あたしは別に……。ダズルの方が怖がってたじゃんか!」
「いーや!アカリの方がビビってた!」
「ビッパをお化けと間違えてたのはどこの誰だよ!」
「そーゆうアカリの悲鳴なんか喧しいなんてもんじゃなかったろ!」
「はいはーい!あんまり騒いでると怒られるでしょ!話だって進まないからあんた達は黙ってて」
(す、進めなくていい……)
また口喧嘩を始めてしまったダズルとアカリの間にリズミは割って入り止めた。
そしてヒトミとハジメに向き直りヒトミの心の声には気付かず説明を始めた。
「ルールは簡単よ。
アンリ先生の教室、ミラカド先生の教室、
職員室、それに図書室の4ヶ所に私達の中の4人のスタイラーが隠してあります。
それを全部集めて地下にある部屋の入り口に置いてくるだけ」
「ちなみに1人じゃ危ないから隣の席の生徒が一緒に行く決まりなんだ」
「でも今回はどっちみちハジメもまだ肝試ししてないから2人で行ってもらうぞ」
(そ、そんなぁ〜!?)
1人で行くわけではないという事実には安堵する。
だが一緒に行く相手は……。
「って事で、ハジメ!ヒトミさんと一緒に肝試しへ……」
「断る」
皆まで言うまでにハジメはリズミの言葉を遮った。
それもかなり不機嫌そうな表情と声で。
「な、なんでよ!?」
「あのなぁそもそも地下室は立ち入り禁止だろうが!」
「今更何言ってるのよ」
「お前ら、いつも勝手に入ってはミラカド先生に怒られてるじゃんか」
「そうそう、そんな細かい事気にすんなって!」
「いや、俺はともかく……」
「ダズルは少しは反省しろ!」
「なんだよアカリだってよく怒られてんだろうが!」
「ちょっといちいち喧嘩して話逸らさないでよ!」
ハジメの言葉を遮りまた喧嘩を始めかけたダズルとアカリをリズミが諌める。
その横でハジメが心底嫌そうな表情をしている。
ヒトミは逃げ出したい気持ちで一杯だった。
夜の学校の中を歩くなど、考えただけでも恐ろしい。
だがここで逃げ出したら嫌われてしまうかもしれないと不安になり動けなかった。
不安なのはそれだけではない。
1人で行くのは怖い。
でも今日ずっと気にしていたハジメといきなり2人きり……。
ヒトミが頭の中でぐるぐると考え込んでいる間にリズミとアカリはハジメの説得を始めた。
「誰でも1度は行く決まりなのよ!」
「知るか。大体誰が定めたんだよ、んなもん」
「私達の先輩方に決まってるでしょう!」
「それこそどうでもいい。第一もともと禁止されてるもんの決まりに強制力なんかねぇだろ」
「何言ってんの!大事な歓迎会なのよ!」
「そうだよ、ハジメは転校生なのに歓迎肝試しやってねぇじゃん!」
「いや、今更だろ」
「今更も何もない!とっととヒトミさんと行ってきなさい!」
「お前だけ逃れるなんて許さねぇぞ!」
「おい、アカリ。お前はそれが本音だろ……」
(ど、どうしよう……)
困り果てているヒトミの前ではまだハジメを説得しようとリズミ達が奮闘していた。
難航する中、ダズルがアカリを押し退け会話に入った。
「なんだよ、ハジメ!お前ひょっとしてお化け怖いのか〜?」
「言っとくけどそんな見え透いた挑発に乗る程バカじゃねぇぞ。お前じゃあるまいし」
「んだと、ハジメこの野郎ーー!!」
「お前が挑発に乗ってどうすんだよ!」
「もう、しょうがないわねぇ。アカリ、ダズルは邪魔だから下がらせといて」
「なっ!?」
「はいはーい」
リズミの言葉に更にダズルはキレるが何か言う前にアカリに引っ張られてしまった。
そしてリズミはハジメに向き直りビシッと指を差す。
「ハジメ!いい加減に観念しなさい!」
「なんで悪者扱いされてんだ。何言われても俺は行かねぇぞ」
「あんた、か弱い女の子に1人で危ない夜の校舎を歩かせる気!?」
「いや、んな事言うならそもそも行かせようとするなよ」
「決まりは守るものでしょう!」
「夜中の校舎と地下室への立ち入り禁止の決まりは守んなくて良いのかよ」
「私達は後輩として、先輩から受け継いだ伝統を守る義務がある!」
「終いには無視かよ、このエセ優等生……!」
その後もリズミの押しは弱まる事はなかった。
ヒトミは1人で行くともやりたくないとも何も言えずただ俯いているしか出来なかった。
そしてついに根負けしたのはハジメの方だった。
「うっぜぇな!行けばいいんだろ、行けば!ったく、拒否する方が面倒くせぇ……!」
「最初から素直にそう言えば良いのよ」
「おぉ〜!さっすがリズミ!」
「やっぱりリズミの口って達者だよなぁ」
「あら、何か言ったかしらダズル?」
「いえ何も……」
黒いリズミと青いダズルにハジメは突っ込む気も失せていた。
ヒトミはというと自分のせいで、とまた自己嫌悪に陥り不機嫌なハジメにオロオロしていた。
「それじゃあ、お2人さん。いってらっしゃーい」
「ハジメ、ヒトミを泣かせたらただじゃ済まさねぇからな!」
「ビビって戻ってくるなよ〜!」
「泣かせたくねぇなら肝試しに行かせんなよ!あと、ダズル!それはてめえの事だろうが!」
満面の笑みで送り出すリズミ。
大真面目に言ってるアカリ。
からかうように笑っているダズル。
リズミに突っ込む事を諦めたハジメは余計な事を言うアカリとダズルにだけ怒鳴ると階段を降りていく。
ヒトミはリズミに言葉を返す事も出来ず慌ててハジメの後を追って行った。
この時点ではまだ誰も知る由もなかった。
歓迎肝試しはただでは終わらないという事に……。