異恋遊戯小説〜シェア彼〜

□〜こんな僕だけど〜
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「…ハァ…ハァ………創一…


肩で息をしていたが幾度かで呼吸を整え、流れていた汗を拭うと裕介は創一と向き合う


「……っ……


思わず彼の名前を呼ぼうと口を開いたが、喉の奥に何かが詰まったよう感覚に襲われ、うまく言葉が出てこない


「 創一…


普段の明るい声が真剣みに帯びて聞こえ、思わず肩に力が入り、足も金縛りにあったかのようにうまく動かない


そんな創一に気付いてかいないのか、裕介は一歩、また一歩と慎重に創一に歩み寄っていく


そしてあと数歩、腕を伸ばせば触れられるくらいの距離に近付いたところで、


「……んで……


創一は重たい口を開き、振り絞るかのように言葉を出した


「んで…来たんだよ…


だがやっと出た言葉は皮肉にも裕介を責めるようなものだった


しかもその声はどこか震えていた


「ごめんな…創一


声だけでなく、肩も密かに震えていたことに気付いた裕介は、創一に近づくと優しく包み込むように創一を抱き締め、責めるどころか嗜めるように柔らかく謝る


「さっ……


責められると思った一瞬まさか謝られるとは思わず驚き、裕介から離れようと力を入れるも抱き締められている腕に力が入り、拒めなくなった創一はうなだれるように裕介の肩に顔を埋める


「…創一?


普段なら凄い勢いで跳ねのけられるのに、少しの抵抗だけで後は静かに従う創一を不思議に思った裕介は、恐る恐る問い掛ける


「創ちゃん…怒鳴らないの?

「…なんでですか…?

「いやだって怒ってたでしょ?俺が文太に…

「……っ……


そこで思わず肩が震えた


文太の名前が裕介の口から出ただけなのに


「あ〜…やっぱり気にしてたんだ…あれ


それに気付いた裕介は納得し、「説明すると長いから」と言い移動することを提案した


「………あ…


確かに、道路の真ん中で男二人が抱き締め合っているのは端から見れば異様な光景だ


裕介はあまり気にしないほうだが創一の性格を考え、場所の移動を提案したのだ

二人は少し離れた人気(ひとけ)のない公園へ移動した


移動する際、創一はつくづく自分は裕介よりも子供だと痛感させられた


この現状になっているのは自分が原因なのに、それを感じさせない裕介の


余裕


気遣い


そして不安を包み込む笑み


申し訳ないと思いながらも先に謝られ、自分が謝罪するタイミングを失ってしまった


こういう時、創一は自分の性格を恨んだ


もう少し素直になれたらと…


そんな事を考えていたら、いきなり裕介が立ち止まり「ここに座ろっか」と、ある場所を指差した


「………マジっすか…


創一は裕介が指差した方に目を向けると、そこには良い具合に一つしかない子供用の木で出来た小さなベンチだった


「どう…座るんすかソレ…


どう見ても大人一人がやっと座れるくらいの大きさでしかないのに、大人二人、しかも男二人が座れるワケがない


一瞬ある考えが浮かんだが、創一はソレを消すかのように頭を左右に振った


「あの…俺、立ってますんで桜庭さんが座ってください


自分を追い掛けてきてくれた裕介に申し訳ないのと、悪いと思いつつも心なしか追い掛けてきてくれたことが嬉しかったのに対しての、創一なりの気遣いだった


「ありがと、創一

「別に…


口では悪態つきつつも創一の優しい気遣いを裕介は受け取り、ベンチに座った


「…で、説明っていうのは…


裕介が座ったのを確認し、話を聞こうとしたら


「ねぇ、創一

「なん…!!


裕介は創一の手持ちぶさたになっている左手を優しく握り、くすぐるような上目遣いで見やってくる


「ちょっ…離し…

「だ〜め。創ちゃんも座るの

「座るってどこに!?

「どこにって…

「うわっ!


いつどこで誰に見られるか分からないのに対しての恐怖心に創一は刈られ、思わず握られている左手を離そうとしたが裕介に遮られるどころか逆に裕介の方へ引っ張られてしまい、ついさっき打ち消した格好、裕介の膝の上に座る形になってしまった


「この方が話しやすいだろ?

「……どこがだよ…


男の膝の上に座るというだけでも恥ずかしいのに、それに追い打ちを掛けるかのように裕介の顔が間近にある


正直言って、かなり心搏数があがっていてまともに話ができるか、創一自身わからなかった


それを分かっているのかいないのか、裕介は満足気に頷き、創一に事の顛末を話しだした
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