エメラルドムーン
□chapter9
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今日の仕事は、なんとなくハードだった。朝から蛍くんのことを怒鳴りつけた時点で、それは目に見えていたんだけど、やっぱり疲れるもんだ。
いつも話しっぱなしのミサキちゃんが黙りこんでいて、この子も静かな時があるんだと思ったけどね。
静かなミサキちゃんをスタイリングしながら、これしきのことで辞めるというようなら、この子に先はないと予想する。どうなるかは、この子次第だ。
喫煙所の椅子に座り、溜息交じりに紫煙を吐き出していると、JOKERsの陽くんが歩いてきた。煙草をくわえているところを見ると、この子も喫煙者なのか。初めて知ったわ。
「お疲れ様です」
「そちらこそ。忙しそうで、なによりよ」
「おかげさまで」
私の隣に座って、陽くんは煙を吐く。横顔も素敵とか、さすがアイドルね。
結婚してしばらく経った頃、元旦那に「女の子なんだから、煙草はちょっとね」と言われたことがある。どっかのモデルちゃんと同じことを言われていたっけ。
「ねぇ、陽くん」
「はい、なんですか?」
「女が煙草吸うのって、ダメかしら?」
短くなった自分の煙草を見ながら聞いてみる。初めて吸ってから、10年は吸い続けているニコチン成分もろもろ。今更やめろと言われて、やめれるものではないけれど、一応聞いてみる。
陽くんは煙草をくわえながら、「そうですねー…」と考え込む仕草をした。
「可愛くないから、俺はあんまり好きではないですね」
まぁ、そうだろう。というか、吸う男に限って女に吸うなって言うんだっけ。
「でも、南月さんなら構いませんよ」
「なんで?」
「俺は南月さんに自分の子供産ませたいわけではないので」
なるほど、そうきたか。ありきたりな返答だと思っていたけど、陽くんは結構面白い子みたいだ。真面目くんだと思っていたけど、ただ頭が堅いわけではないのね。
1本だけと思っていたけど、箱からもう1本出して火を付けた。
「じゃあ、彼女が吸いたいって言ったら大反対なのね」
「絶対、吸わせませんよ。俺も禁煙しますし」
ナチュラルに彼女の存在を肯定するとは、ちょっと危ないな。キョロキョロと見回して、パパラッチがいないか確認してみる。見回したところで見つかるわけじゃないけど、なんとなくだ。
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