KiKi.

□02.
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あたしと一緒にいる美代ちゃんは、漫画がすごい好きで、歌がすごい上手い子だ。この前一緒にカラオケに行ったけど、美代ちゃんが歌った歌は後から歌えないって思う。
背中まである長い髪が自慢らしくて、中学生の時から伸ばしてるんだと笑う。手入れのされてる髪は、確かに綺麗で自慢にもなるだろう。

そんな美代ちゃんは、ヤマザクラのファンだ。桜ちゃんが一年に二冊出すか出さないかで描いている漫画の、「お菊物語」っていうホラーチックでシュールな漫画が好きらしい。ストーリーというか、イラストが好きだと言う。

和服姿で、片目を長い前髪で隠した主人公の女幽霊「お菊」が、仲間の幽霊やら妖怪と一緒に町人を驚かせたり、時には子供の手助けをしてあげたり、化け物同士の抗争をしたりする、お菊物語。主人公の「お菊」は、女のくせに一人称が「俺」で、口調も荒い。胸もぺったんこで、仲間の幽霊たちにからかわれてはキレている。
イラスト業の合間に気まぐれで描いているこの漫画は、案外ファンがいる。何が面白いのか知らないけど、月刊連載にしてくれというファンレターが来たりするのだ。そんなファンの催促を貰ったところで、桜ちゃんは気まぐれをやめないけれど。



美代ちゃんの話しに戻ろう。
美代ちゃんは、「お菊物語」が好きで、ヤマザクラのファン。でも、あたしは「お菊物語」が好きじゃなかったりするから、美代ちゃんが「お菊物語」の話しをはじめれば、あまり話さなくなる。それが、美代ちゃんが好きじゃないらしい。嫌なものは嫌なんだから、押し付けないでよ。思うけど、言えない。全く、面倒だよ。美代ちゃんもあたしも。

美代ちゃんと喧嘩した。発端は、やっぱり「お菊物語」。

「湯本ちゃんは、ちゃんと読んでないからわからないんだよ。ちゃんと読んでみてよ?」
「ちゃんと読んでるよ。でも、あたしは好きじゃないよ」
「嘘だよ。だって、お菊がさ…」
「嘘じゃないって!」

少し、声を大きく張ってしまって、教室にいた人たち全員の視線を集めてしまった。誤魔化すように文庫本に目を落して、教室を出て行く。
それは朝の時間だったから、1時間目が始まる前には戻ってきたけど、休み時間も昼休みも、美代ちゃんとは話さなかった。お昼はかろうじて一緒に食べたけど、それは他の二人がいたからだ。

授業は全部、ボーっとして過ごした。授業内容なんか頭に入らないけど、ノートに落書きをして、一応ポーズだけでも授業を受ける。午後の授業である数学と物理のノートに同じ落書きをした。

長い尻尾をした狐の妖怪、キサラギ。なんとなく、美代ちゃんに似ているこの化け狐は、お菊の妖怪友達。いつも二人は一緒で、饅頭屋を襲ったり、通行人を川に落としたりしている。お菊とキサラギは大親友なんだ。

「こらぁ!!授業中になにしてんだ!!」

数学の時間に、先生にそうやって怒られたのは、笹谷くんと緋山くんだ。笹谷くんは寝ていて怒られていた。バドミントン部の彼は、遅くまで練習を頑張っているのだろうか。一方の緋山くんは、落書きが見つかったらしい。あたしはそれを見て、キラサギの描かれたページを教科書で隠した。




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