KiKi.

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眠くないけれど、目を瞑っていたい時がある。何を考えるわけでもなく、ただ目を瞑っているだけで、不思議と心が落ち着いていくんだ。
そうすれば、気持ちや記憶が整理されていって、そういえばこんなことがあったな…と、たくさんのことを思い出す。

随分前のことなのに、昨日のことみたいに思い出せるのは、あたしもそれなりに年を取ったということだろうか。前にそれを桜ちゃんに言って殴られたことがある。「お前で年寄りなら、俺はミイラだ」と言う具合に、グーで。
あの男は仮にも姪であり、掃除炊事をしている女をグーで殴ってきた。暴力反対。

桜ちゃんはもうすぐ三十路に突入するけど、もうすでに三十路みたいな感じがするから、本人も気にしてるのかな。桜ちゃんには二つ年上のお兄ちゃんがいるんだけど、あっちはまだまだ二十代で通じる童顔だ。若作り成分は、全てお兄ちゃんに持っていかれたようだ。

でも人間、いつかは老いていく存在。それが早いか遅いかなんて、どうせ最後には死んでしまうんだから関係ないんじゃないかな。少しでも若く見せたいとか、見栄っ張りでしたかない。ありのままが一番人間らしいよ。

なんて、あたしが「人間の死」という、なかなか大きな事を考えている中、隣でマリオが死んだ。テッテテレレレン。まぬけな死に方しやがって。

「ヘタクソ」

さっきから聞こえているゲームの音。そんな中で考え事なんか出来るはずない。仕方ないんだけどね。あたしは、弟と部屋が一緒だから。無謀なことしてるよ、あたし。
せめてものの抵抗と、某赤い帽子のヒゲ親父を操って、ピンクのお姫様を助けることに奮闘している弟を野次ってみる。

「うるさい、ねくら」

全く、可愛くない。

「こっちがナイーブなこと考えてるっていうのにさ」
「たとえば?」
「人間の死について」
「わけわかんねぇな。また、桜さんから悪影響受けた?」

三つ年下の弟は、桜ちゃんが好きじゃない。あたしの前じゃ「桜さん」なんて呼んでいるけど、実際は「あの人」と呼んでいるのを知っている。なんか知らないけど、毛嫌いしてるみたいだ。
まぁ、桜ちゃんをよく知らない人からしたら、胡散臭ささの塊みたいな人間に見えるよね。実際は、茶目っ気のある三十路寸前の絵描きなんだけど。イラストレーターってことすら、「自称?」と聞き返されてしまいそうだ。

桜ちゃんが人に与えるものは、絵を通しての感動や刺激だけとは限らない。桜ちゃんという人間そのものから発される、他の人とは違う感性みたいな。それが合わない人間がいるんだ。あたしの弟みたいに。

「悪影響じゃないよ。これは、あたしの考え」
「そうやって考えるようになったのが、悪影響受けた結果じゃん」

そういう言い返しが出来るあたり、あんたもあたしも似た者同士だよ。つまり、これは桜ちゃんの影響じゃない。湯本家の性格だよ。





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