シンデレラガールは走り出す

□episode7
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こうやって抱きしめられることに慣れたのは、いつからだったけ。まず、いつからいちくんはこんなにもスキンシップが激しくなったんだろうか。たぶん、あたしが中学生くらいのころだったと思うんだけど正確なのは曖昧だ。
でもね、いちくんのこの腕の中には、他の女の人がいるべきなんだよ。何回言っても、いちくんは聞いてくれないけど。

高校生になってすぐの時に、みっちゃんに聞かれたことがある。「優くんのこと、どう思ってるの?」って。たしか、あたしは「好きだけど、なんかお兄ちゃんみたいな感じかな」って答えた。そのあと、みっちゃんは呆れたように何か言っていたけど、なんて言っていたんだっけか。




「すぐるんぱは、結子ちゃんにくっつきすぎだよね」
「えへへ」

えへへじゃないでしょ。今年も、どれだけ飲んだんだこの人は。

「つか、ハルはまだ優さんのこと”すぐるんぱ”って呼んでんだね」
「だって、なんか呼びやすいんだもん。ねぇー、すぐるんぱ」
「ねぇー、ハルちゃん」

そういって、あたしを抱きしめる力を強くする。いや、「ハルちゃん」言うなら、ハルくんのこと抱き締めなよ。






この前のカラオケから、いちくんに対して気持ちが少し変わった気がする。いちくんに対してというか、いちくんの気持ちに対してだけど。

『妹』じゃないといいな。って、それだけ。

でも、こう思うってことは…って、今日までずっと考えてた。だから、今日はいちくんに対しての自分の気持ちを確かめたかった。

「ゆいちゃんは、ほんとにかわいいね」

いちくんの言葉に、少し跳ねるあたしの鼓動。このドキドキは今までと違う。
だからね、この扱いが苦しくて嫌なの。やっぱり、あたしね…。






いちくんが、あたしの頭をポンポンと撫でる。さっきの、蛍くんみたいに。




バシッ






気が付いたら、いちくんの腕を払って立ち上がっていた。ガタンと椅子が倒れて、みんながこっちを見る。

「ゆいちゃん…?」

いちくんの驚いた顔。あんまり、見れないんだよね。いちくんって、ちょっとのことじゃ驚かないから。レアだな。

あぁ、みっちゃんが言ってたこと思い出した。
なんでだろ、瞼が熱くなってきた。泣いてるのかな、かっこ悪いや。
気付いた途端に、これとか、都合良すぎないかあたし。

「ごめん…いちくん、嫌い」

あたしのこの「好き」は、お兄ちゃんに対してみたいなものじゃない。だけど、いちくんにあたしはダメなんだよ。

涙でぼやけた視界じゃ、いちくんがどんな顔をしているのかわからなかった。ごめんね、楽しい雰囲気壊しちゃって。せっかくの、クリスマスなのに。

そのまま、鞄を持って外に飛び出していく。ハルくんと、蛍くんの声が聞こえたけど無視をした。外は雪が止んでいて、思ったより温かったけど、その温かさが今は辛く感じた。どうせなら、この涙を凍らせてくれるくらい寒かったなら良かったのに。











『後になって後悔するわよ。きっと、あんたが困るくらい、優くんの存在は大切になると思うわ。お兄ちゃんとしてじゃなくてね』



17年間生きてきて、初めて泣いて過ごしたクリスマスと、これまた初めて気付いた気持ちの正体。
すごく苦しいです。





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