KiKi.

□01.
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そんな桜ちゃんが、あたしは好きだ。たぶん、あたしの世界は桜ちゃんを中心に回ってると思う。

「向日葵ねぇ…まぁ、花に例えられるということはおキクも女として認識されてるんじゃないの?」
「認識どうこうされる前に、あたしは女だよ」
「だったら、その肉付きの薄い身体をどうにかしろ」

あたしは天井に向かって「無理」とだけ呟いた。桜ちゃんは何がおかしいのか楽しそうに笑ってた。
29歳、仕事のやり過ぎで精神崩壊かな。

あたしと桜ちゃんの付き合いは長い。だから、こんな風にデリカシーの無い変態話も笑っていられる。

ふざけたことを考えていたら、おキクと呼ばれた。弥生の毛並みを撫でながら、天井に向かって返事をする。

『おキク』は菊野のキクに敬意を表して「お」を付けたらしい。桜ちゃんは「御の字付けてるんだから、最大級の敬意だよ」と言っていたけど、ただのおふざけにしか聞こえない。おキクとか、もう…怪談噺の幽霊じゃん。

「紅茶いれて。砂糖とミルクたっぷりね」
「了解」

弥生を顔だけ出るようにして炬燵の中に入れ、キッチンに立った。青いカップにティーパックを入れてダイレクトにポットのお湯をカップに注ぐ。飲めりゃ、淹れ方なんて気にしない。あたしも桜ちゃんも。
白のカップにもミルクティーを作って、変な兎が描かれたお盆に乗せて持っていった。お茶請けとして、お姉のお土産のクッキーを添える。桜ちゃんはココア風味のやつを一口齧って「固ぇ」とほざいてた。

弥生には、温いミルクをあげた。お前のご主人は、ちょっと暴君だよね。あたしの心の声を聞いてか、弥生はにゃーと鳴いた。







家族はあたしと上手く付き合っていると思っている。別にそれはあたしも否定はしないし、仲が良いか悪いかと聞かれたら、間違いなく良い方だ。父さんとは本の趣味が合うから、夕飯を食べながら本について話したりする。母さんとは、よく買い物に行く。お姉と弟は、やっぱり兄妹だから趣味だったり波長だったりが合う。

くだらないバラエティー番組見ながら大笑いして、今日は何があった明日は何があるか話して、それで風呂入っておやすみなさい。絵に描いたようなまではいかないけど、昼ドラなんかの複雑な家庭じゃないだけ幸せかもしれない。

たぶんそれは、あたしに反抗期というものが来てないからなのだろうかとあたしは考えている。テレビで見る家庭崩壊のきっかけって、大概が親父のリストラとか母親の浮気とか、思春期真っ盛りの子供の荒れようだ。というか、昼ドラの家庭が破格過ぎるから、どこの家庭だって幸せ家庭だ。

今は笑っていられるあたしの家族だけど、もしあたしに反抗期が来て荒れまくったらどうするのかな。そもそも、あたしは反抗期が来ていないというか、来ていたけどそれをねじ伏せられただけだ。子供の頃から親はとにかく怖かった。語弊があるから言っておくが、虐待とかDVがあったとかそういうのではない。単にあたしがどうしようもないチキン野郎で、逆らおうなんて考えられなかっただけである。友達が、昨日親と喧嘩したとかいう話をすると、心の中ではあたしは絶対無理だなって思っていた。それだけあたしは真っ直ぐなのか、心臓がノミなのか。後者だな。





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