KiKi.

□02.
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部活に所属していないあたしは、学校が終わると真っ直ぐに桜ちゃんの自宅兼アトリエに向かう。家族はあまり好きじゃないけど、桜ちゃんは好き。だから、必然的に放課後や休日は桜ちゃんの自宅兼アトリエで過ごす。
桜ちゃんは、あたしがいることに文句を言わない。まぁ、それはあたしが掃除や洗濯、料理の身の回りのことをやっているからだと思う。桜ちゃんの生活力の無さを知っているからか、あたしが桜ちゃんの所に頻繁に出入りしても家族は何も言わない。「お前は、桜にベッタリだからな」で終わる。

桜ちゃんの所には、そのまま泊ることもあれば、普通に帰ることもある。普通に帰る時は、桜ちゃんの夕飯と朝食を冷蔵庫に作り置きしていく。今日は作り置きコースだ。

喧嘩の発端となった「お菊物語」。それを生み出した桜ちゃんが、喧嘩の原因じゃないかって思うけど、桜ちゃん自身は嫌いになんかならない。だから今も、クッションを抱きしめながら、桜ちゃんの猫背な背中を見つめている。
足元には弥生が、うつ伏せになって寝ている。息してるよね、これ。

「なに、おキク?お腹でも痛ぇの?」

何も話さないでいたら、桜ちゃんが聞いて来る。あたしがこうしていても普段は何も言ってこないくせに、なんで今日に限って聞いて来るんだろう。
あと、今だけはその呼び方をしないでほしい。

「…ねぇ、なんで『お菊物語』なんて描いてるの?」
「なぁに、また文句かよ。いいじゃん、俺の勝手」

その勝手の所為で、あたしは本音を話せる貴重な友人と喧嘩してるんだ。

桜ちゃんも、「お菊物語」も悪くない。知ってるけど、今のあたしはイライラしてて、文句を言わずにはいられない。

「お前さ、前から嫌いだっていうけど、何が嫌なわけ?」
「お菊のモデル、あたしじゃん。なんで、自分が面白おかしくされてる漫画読まないといけないのさ」
「じゃあ、読まなきゃいいだろ」

同情も、慰めもない。桜ちゃんはそういうやつだ。
なんだよ、あたしがいないと餓死するかもしれないし、ここもゴミ屋敷になるかもしれないくせに。

でも、桜ちゃんはあたしの方を振り返りもしない。黙々と、締め切り前だという雑誌の表紙イラストを仕上げにかかっている。

あたしは、このムカムカする気持ちを何かにぶつけたくて、適当な紙に赤いペンで落書きを始めた。細めの瞳、長い髪が美代ちゃんと似ている。尖った耳と、ピンとした髭、目元に模様を描いた狐。化け狐のキサラギ。

美術が得意じゃないあたしが描くキラサギは、ちっともキラサギにならない。キサラギはずるくて口先だけ調子がいい奴だけど、お菊のことが大好きで、二人で夜の町を歩くのが一日の楽しみなんだ。あたしの描くキラサギは、ただの意地悪な化け狐だ。





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