KiKi.

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あたしの席は、窓側の後ろから二番目。縦列は七つの席があるから、その中では後ろの方。
この席は、クラスの様子が結構良く見える。あの子は今寝てるな…とか、くそ真面目にノートをとってる子とか、なんだか不機嫌で喧嘩中なのかな…。確かに、クラスの様子が良く見える席だけど、あたし自身がクラスの相関図に詳しくないから、把握とまでは出来ない。みんなに良い顔はできるけど、みんなに詳しくはなれない。
広く、浅く。八方美人ではない、ただ取り残されるのが怖いだけだ。

それに比べて、笹谷くんと緋山くんは別々の意味であたしと違うタイプだ。
笹谷くんは誰とも仲良くできて、誰ともでも深く関わっている。緋山くんは、一人でも平気で、一人が当たり前みたいな顔をしている。
そんな二人は、全く似ていないけど、どこか共通してる部分がある気がした。

この席から、葉島ちゃんと美代ちゃんはよく見える。百合ちゃんはあたしの斜めの後ろだから、振り返らないと見えない範囲だ。あっ、美代ちゃん隠れて本読んでるな。
なんて美代ちゃんの後ろ姿を見ていたら、背中をつつかれた。振り向けば、百合ちゃんがあたしを見ていて、小さく折りたたんだ紙を渡して来た。開けば、百合ちゃんの可愛らしい字で『緋山くんにお礼が言いたいから、ついてきてほしいんだけど、いいかな?』と書かれていた。百合ちゃんらしいなと考えつつ、『いいよ!次、お昼休みだから、その時にね!』と書いて返した。


四時間目を終えて、いつもはすぐに三人と机をくっつけてお弁当を食べるんだけど、百合ちゃんと約束をしたので、葉島ちゃんと美代ちゃんに先に食べててと言って、緋山くんのところに行った。緋山くんは、パンをかじりながら、雑誌に目を落している。例の如く一人である。

「あの、緋山くん?」

控え目に声をかける百合ちゃんに、緋山くんは読んでいた雑誌から顔をあげた。
よく見えないけど、たぶん美術雑誌。「soldier」ではない。

「朝はありがとう。…その、すぐにちゃんとお礼を言えなくて」

口ごもりながら、なんとかお礼を言う百合ちゃん。あたしは緋山くんは相変わらずの無表情で返すと思っていた。

「いいえ、気にしないでください」

しかし、あたしの予想とは裏腹に、緋山くんは優しい笑みを百合ちゃんに向けた。眼鏡越しのその優しい目を、というか緋山くんの笑った顔を初めて見た。緋山くんも、こんな顔をするんだな。
あたしの隣で百合ちゃんは、その白い頬を、赤く染めていた。あたしが笹谷くんを叩いた時とは、違う意味で赤く。






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