KiKi.

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学校が終わって、放課後になると、あたしの中では一日が終わったも同然になる。他の三人と違って帰宅部のあたしは、放課後は家に帰る意外なにもない。家と言っても、桜ちゃんのアトリエだけど。

ちなみに、葉島ちゃんと美代ちゃんは文芸部。百合ちゃんは書道部に所属している。

しばらく、自分の机に座って本を読んでいたのだけれど、急につまらなくなったので本を閉じた。しおりもなにも挟まずに閉じた本を鞄に入れて、何気なく携帯を開いてみれば、メールが一件。桜ちゃんだ。

『カツオ、食いたい』

絵文字も何もない、そのメール。リクエストしてくれるのは、夕飯の献立を考えずに済むから大変ありがたいことだ。今日はビーフシチューにでもしようと思っていたけど、桜ちゃんがカツオを食べたいならカツオにしよう。ビーフシチューは明日だ。

カツオって、初物を食べれば寿命がのびるんだっけ。今は時期じゃないけど、別に美味しいなら構わないよねと考えながら、学校を出た。

時刻はもう夕暮れ時で、空は赤く染まっている。あかね色のグラウンドでは、サッカー部が練習をしていた。声を飛び交わせながらボールを追いかける姿は、影を背負っていて、写真におさめたら、青春というタイトルがお似合いだと思う。

青春。染まる、頬。恋。

今日は、人が恋に落ちる瞬間を初めて見た。
あの人は、この人を好き。だけど、この人は、その人が好き。好きというベクトルが混ざり合う恋愛は、あたしはよくわからない。
好きな人はいる。桜ちゃんだ。

でも、あたしの知っている恋愛は、なんだかいつもドロドロとしていた。だって、最終的には誰が浮気をした、誰が誰を振ったで終わるんだもの。終わる?終わるのは、その一つの恋心だけなのかな。誰かが誰かの中に作った居場所もなくなって、終わってしまうんじゃないかな。

百合ちゃんの中で、緋山くんが特別になった。でも、百合ちゃんか緋山くんのどちらかが好きじゃなくなったら、恋心も居場所もなくなってしまうのだろう。というか、なんであたしは、二人が付き合ってる前提で考えてるんだろうか。自分の思考回路が怖いよ。

あたしの世界の中心は、桜ちゃんだ。その中心が変わるとき、あたしはどうするんだろう。桜ちゃんは何か言ってくれるかな。あぁ、違うな。きっと、桜ちゃんはあたしの傍にはいない。それが、中心が変わるってことだ。

じゃあ、今のあたしの中心は桜ちゃんで、桜ちゃんの中心はあたしなのかな。傍にいてくれている今は、あたしが桜ちゃんの中心って思っていいのかな。

馬鹿くさい。桜ちゃんに中心なんてないよ。あの人はいつでもふらふらしてるもん。

さぁ、早くカツオ買っていこう。






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