KiKi.

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口には出さないでいたら、誰かがノックした。返事をする前に、お姉が入ってくる。ベットに寝っ転がっているあたしの姿を見て、意外だという顔をした。

「今日は、一ノ瀬さんところじゃないの」
「そんな毎日毎日は泊らないよ」

お姉は、桜ちゃんのことを名字で呼ぶ。
一ノ瀬桜。それが桜ちゃんのフルネームだ。

一ノ瀬家から嫁いだあたしたちのお母さん、今では国民的アイドルユニットのJOKREsの一ノ瀬優が上にいる。一ノ瀬家末っ子次男な桜ちゃんは、字面を見ただけだと次女でもおかしくない。
テレビで見ない日はないんじゃないかと思うほどの人気の優さん。その優さんがあたしの叔父で、桜ちゃんのお兄ちゃんなんて誰が信じるだろう。幼い頃からそれが真実だったあたしは信じるしかないけど、他の人に行ったら高確率で嘘つき呼ばわりだよ。
優さんは桜ちゃんと違って童顔で、人懐っこい性格で、なんか可愛い人だ。桜ちゃんのことを「さっちゃん」と呼び、あたしのお母さんを「すみれ姉ちゃん」と呼ぶ。
一応、長男らしいけど、全く見えない。だからって、桜ちゃんが長男って型か?って言われたら無理だ。

だって、桜ちゃんは、人の上に立つような人間じゃない。ふらりふらりしてて、猫みたいだ。いつかは消えちゃうんじゃいかって、あたしはそんな野良猫におびえてる。

「毎日のように行ってるから、どっちがあんたの家なんだかわからないわね」
「桜ちゃんの家、居心地いいんだもん」

あたしの物もたくさん置いてるから、本当にどっちが家かわからない。夏休みや冬休みの長期休暇は桜ちゃんの家で過ごすしね。

弟は桜ちゃんの家に行ったことがない。別に来ても構わないのに、頑なに拒む。いくら桜ちゃんでも、取って喰いやしないよ。一体、何が気にくわないのか。
その点お姉は、どっちつかずといった感じだ。桜ちゃんを嫌っているわけでもなければ、好いている様子もない。世間一般の叔父とは違う桜ちゃんを、あんなもんでしょと評価している。

ただ、そんな桜ちゃんに懐いているあたしのことは、変わっているとよく言う。あたしの目から見たら、お姉だってよっぽど変ってるよ。
お姉は、あたしと6つ離れている。それだけ離れてたから、姉妹といっても共感できる部分は少ない。ジェネレーションギャップというのは、やや大げさだけど、価値観の差は大きなものだと思う。





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