utapuri2

□初めての恋は涙の味がした。
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好きじゃないんだから
抱きしめるな。
















「翔ちゃん、」

泣いてるところを見られてしまった。










俺のパートナーは音楽の才能に恵まれているが、作ったらそれで終わり。
あとは勝手にしてくれ、らしい。
そんな俺らとは違い、那月とパートナーはきちんと分かり合って2人で頑張る!
らしく、帰ってくるのが遅めだ。

那月のパートナーになれたヤツは幸せだと思う。
しつこいし、天然でアホだけど、
なんだかんだで優しいから。



「ぅ、ぐ」


俺は全然那月に勝てない。
音楽は那月に才能を与えたし、
なんだって、かなわない。


「ひ、ふ、」



那月がいない夜は泣くのが日課になっていた。
泣いて、泣いて。
でもスッキリなんかしなくて。


那月が憎くてしょうがない。
那月が羨ましくてしょうがない。

那月が、好きで好きでしょうがない。

俺は、きっとどんなに努力をしても、周りにどんなに良い評価を受けても

那月には勝てないから。






ぼたぼたと涙がとまらない。
まぁ、止める気なんてねぇけどな。

だって、那月もだれもいないから。
きっと那月に見られたら

『ど、どどどどどどうしたんですか!?ぼ、ぼく、なんか翔ちゃんに、しちゃいましたか!?』

ってなるんだろう。






いつも、那月が帰ってくる30分前には泣きやむ。
そしてからベッドに入って寝たふりをして、気が付いたら寝ている。




「ふ、く」



でも、今日は違った。
涙が止まらなくて、
一生懸命に目を開いているのに、涙が目に溜まって瞬きもせず、頬を伝う。


しかも、那月が30分早く帰ってきてしまった。


「ただいま!翔ちゃん!今日こそは一緒にごは…ん…」



「…翔ちゃん、」




近付いてくる那月に、俯く俺。


あぁ、見られてしまった。
いちばん見られたくない奴に、見られた。
那月には絶対かなわない。
だって、好きだから。
那月が他のヤツと話してると胸が苦しくなる。
もっと、もっと一緒にいたい。

抱きしめてほしくないのは、
那月に俺のこの汚れた想いが伝わってしまいそうだから。
那月が俺のことなんて、


好きじゃないから。









那月は近づいてくると、俺の前で止まった。


何をしているのか、
そう思って上を見ると


瞬間、真剣な顔をした那月が俺を抱きしめた。


ふわり、といつもとちがう抱きしめ方によけい溢れ出す涙と那月への想い。


「はな、せ」

「いやです。」

この男は本当になんなんだ。人の気も知らないで。

「翔ちゃん、翔ちゃん。」

「…んだよ」

「ごめんね」


那月はそう言って
俺を離して俺の涙を手で拭う。


「ん、だよ、…抱きしめるな、好きじゃないくせに」

「翔ちゃ
「やめろよ!お前の優しさは、俺を傷付けるためにあんのかよ!」

「違う、違うよ、翔ちゃん。」

「な、にがちが、うんだよっ…」



「翔ちゃんは、涙さんも綺麗なんですね。」

「…ふざ、けんな、ひとのはな、しスルー、すんな…!」

「翔ちゃん聞いて。僕ね、正直恋愛がわかんないんです。ただ、翔ちゃんを見ると苦しくなって、でも嬉しくて。しかも翔ちゃんと話している人たちがちょっぴり憎くて、羨ましいんです。」

「…ぇ」


「こんな気持ち、はじめてで、どうすればいいか、全然わかんなくて…」


そう言うと、那月は

「つまり、ぼくは翔ちゃんが好きなんです。初恋なんです。」

「…あ、お、おれ、も」


好きだ、そう呟くと
那月はまた俺を抱きしめて


「目、瞑って?」






キスを落とした。















初めての恋は涙の味がした。
(うれしくて溢れた涙が、頬をつたった。)

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