新選組色恋録

□鬼の懐中時計(藤堂平助編)
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私、雪村千鶴が父様を探して遠くは江戸からこの京の都までやって来てはや三年程。
漸く馴れない暮らしの中にもこの新選組という枠の中で、少しずつだけど居場所を見出だし始めていた。

そんなある日の夜の事だった。
私は自分の部屋の外で、コトリと小さな音の気配がしたのに気付き、静かに部屋の襖を開けた。

「…鈍感なお前でも一応にこれくらいの気配には気付くのだな」

月明かりをその身に浴び、庭先に佇むその声の主はゆっくりとこちらに視線を向ける。

「風間千景!!」

私はその声の主の姿を確認する刹那、体が身構えるのを自覚した。
その感覚が大気を通じ庭先の彼にも通じたのか、彼、風間千景は僅かに口角を上げて妖艶な笑みをたたえ、一言を紡いだ。

「安心しろ。今宵はお前を連れに来たわけではない。」

いつまでも新選組の雑魚共に預けておくのも偲びなくもないが…と、彼はそのままつづけながら一歩一歩と私の方へ歩みを寄せる。

「こちらにもそれように支度が必要でもあるからな。頼りない番犬でも側に置かぬよりはましという事もある。」

その高飛車で唯我独尊な言い方に思わず腹が立つ。

「新選組のみんなの事をそんな風に言わないで!!」

そういきり立つ私を表情も変えずに一瞥した風間さんは、不意に私の目の前に一つの金の塊を差し出した。

「これ…は??」

急なこと故、目を丸くしてその塊を見詰める私に風間さんは静かに続けた。

「いつまで愚かな人間共に付き合ってやるつもりだ。いい加減目を覚ませ…。これは懐中時計というものだ。刻々と時だけを刻み続ける…我が風間家に伝わる物だ。」

私は風間さんが言わんとしている事の意味を掴み取れずにいた。

「俺は知らぬが…」

そして風間さんはその懐中時計という物をそっと私の掌中に収めさせる。

「この懐中時計とやらは、不思議な力を持つ…満月の夜に未来に通ずる道を開くと言われている。」

「み…らい??」

私が繰り返すと風間さんは言葉無く頷いた。

「俺はこの日の本が先々どうなろうと知ったことではない。それ程の興も湧かぬでな。…故に、未来なぞに行こうとも思わぬ。…しかしお前は何やら愚かな人間共に淡い希望を抱いていると見える。お前の信じる脆弱な生き物がほざく『微衷』とやらがどれだけの事を成せるものか…お前の目で見てみるのであればそれも面白い。」

風間さんのいちいち他を貶める言葉には怒りが込み上げる気持ちでいっぱいだったが、それに反するように私の意識はこの懐中時計と呼ばれる物に何故か魅せられた。

新選組は…

私の信じるこの国は…

どうなるのだろう。






…そしてあの人は…
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