新選組色恋録
□陽月の焔・弐(斎藤side)
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誰もいなくなった広間で俺は独り眼を伏して黙していた。
「斎藤。どうだ?一緒に。」
どこからともなく呼び掛けられた声に、俺はその目を開く。
先程出ていった筈の左之が酒を片手に振って目の前に立っていた。
「…朝酒とは…隊務に支障を来すのではないか?」
新八でもあるまいし、朝から酒を浴びるなど俺には理解出来ぬ故、つい怪訝な顔になってしまったのだろうか、左之はまぁそんな堅い事言うなよと俺の肩をポンポンと叩きながら俺の隣に座した。
「…。」
「…。」
男二人が無言で朝酒など、正直傍目に見たら異様な光景ではないかと俺は思う。
しかし左之は自分から何かを話そうとするわけでもなく、ただ酒をちびちびと俺の横で呑むだけだった。
恐らく左之は俺の心中を慮っての事なのだろう。
何があったのか訊ねる訳でもなくただ隣にいるだけの左之に俺は何故か安堵してしまう。
「…左之。すまない。どうやら俺はあんたに気を遣わせてしまっているようだ。」
俺がそう言うと左之も初めて口を開いた。
「んな事は気にすんな。誰だって浮かねぇ時だってあるもんさ。」
そんな左之に俺はふと笑顔になる。
「では少しだけ…聞いては貰えないだろうか。」