新選組色恋録

□黄泉桜の記憶
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「…今年も咲いたか…。」

この本島最北の斗南にも今年も漸く春が訪れた。

俺は夜の暗闇の中で、ざわざわと風にその身を散らしながら白く浮かびあがる桜の大木の下で独り、酒を嗜んでいた。

無論、語り呑む相手がいるわけではないのだから己の手酌ではあったが、俺はここ数年桜が咲く季節になるとこの桜の下での酒を欠かした事はない。

そして決まって俺の目の前にはもう一杯、酒が並々と注がれている杯がある。

此こそが俺の…俺の中でのしまい込んだ記憶を呼び起こす事が許された。唯一の時だった。





…もう二度と…。





俺の心の中を一掃するように、その時、強い風が吹いた。

その強い風に吹かされた花弁が一、二枚、目の前に置いた杯の酒の中に浮かんだ。







―黄泉桜…。








そう…俺はあの日、この桜を見てそう思ったのだ。








あの遠い記憶の中で…。
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