新選組色恋録
□恋咲く華
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あれは突然の出来事だった。
つい数刻前まで何の感情も無かった俺が、どうしてこんなにも変わってしまったのか、俺は自分の事ながら全く理解出来ねぇでいた。
そう…恋の花は突然に…。
その蕾を開かせる。―
「あ〜あ。今日も雨かやってらんねぇなぁ。」
巡察から帰った俺は、身体中びしょ濡れで八木家の玄関を潜った。
このところ梅雨のせいでこうやって巡察中に雨に降られる事が多い。
カラッカラの太陽が似合う江戸っ子の俺様には全く辛い季節だぜ。
「新八。その様な所で愚痴を言っている暇があるならさっさと体を拭いて上がれ。後が詰まっている。」
今日の巡察は三番組と合同。
一緒に見回りから帰った三番組組長の斎藤が後ろからそう言った。
「へ〜へ〜。お前は本当に今日の雨並みに冷たい男だねぇ。もうちっと優しい言葉は出てこねぇもんかねぇ。」
「無駄口はいい。さっさとしろ。」
―ドンッ!!
「おわっ!!」
愚痴をたれながら濡れた羽織を脱いでいた俺の背中を斎藤が押した。
その時、俺の足許が雨水でツルリと滑った。
「永倉さん!!斎藤さん!!おかえりなさ…えっ!!あっ!!きゃあ!!」
―ドサッ。
―あ痛たたた…た?
―た?
―あれ?…痛く…ない?
俺は倒れる直前に咄嗟に瞑った目を開ける。
そして何やら痛さとは別の感触をその手で確かめる。
―ムギュ…。
「きゃあああ!!」
俺がその違和感を確かめたのと同時に頭上から物凄い叫び声が発せられた。
―えっ!?えっ!?えっ!?
「おいおい新八。お前それはちょっと…頂けねぇぜ?」
倒れたままでまだ事態が把握出来てない俺の耳に左之の苦い声が聞こえた。
「あ〜あ。新八さんったらスケベだなぁ♪」
続いて総司の何やら楽し気な声。
俺は初めて上体を起こし、漸く事の重大さを知った。
「…あ。」
顔をあげると物凄い至近距離に千鶴ちゃんの顔。
そして…。
「新八っつぁん!!手ぇ!!手ぇ!!」
平助の声に自分の手元を見るとなんと!!
「う、うわぁぁぁぁあ!!ご、ごめんっ!!千鶴ちゃん!!」
事もあろうに俺の手は千鶴ちゃんの胸を完全に触っていた。
「こりゃあ完全に確信犯だな。」
「ち、違っ…!!」
「何が違うんですか?新八さん。違うなら手、早く離してあげたらどうですか?」
左之の言葉に弁解しようと思った矢先に総司に突っ込まれた俺は、もう穴があったら今すぐ入りてぇくらいだ。
「本当!!本当にわざとじゃないんだ千鶴ちゃん!!だから許してくれ!!この通りだ!!」
俺は思いっきり千鶴ちゃんの前で合掌し、謝り続けた。
千鶴ちゃんはそんな俺の前でただ苦笑いを浮かべているだけだった。