新選組色恋録

□明くる空
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―明日は…また雨でしょうか…。―




縁側から見える夜の空は、いつもより幾分どんよりとして見えた。



―…私の心はあの日…あの時から…晴れた事がない…。―




―否…明けた事がない…と言うべきでしょうか。―




―何処までも続く闇はもう…私の心に光など、届けてはくれないのだと…。―





ガタガタッ!!



―?―


此処は新選組屯所、西本願寺の一角。
広い境内の中でも滅多に人の寄り付かないこの場所は、羅刹と化した私の住居でもあり、牢獄…の様な場所でもある。

―こんな時刻にこの建物付近を彷徨くなど…おおよそあの子くらいしかいないでしょうね。―

私は怖い程静かなこの場所に不意に聞こえた物音に何となく心当りがあった。

「…雪村くん…ですか?」

すると木戸が開き、ひょっこりと見慣れた顔が部屋を覗いた。

「すいません。起こしてしまいましたか?」

そう申し訳なさそうに訊ねる彼女に私はふっと笑みを浮かべ答えた。

「いや…もう起きてましたから大丈夫ですよ。皆さんはこれからおやすみの時刻でしょうが羅刹の私にはこれからが活動時刻なのですから。」

「それもそうですね。」

彼女、雪村千鶴は笑った。

牢獄に繋がれた様な生活と言えば、彼女もまたある意味同じなのかもしれませんね。

「山南さん、夕餉…っと、山南さんにとっては朝餉でしたね。お持ちしました。」

「有り難う御座います。折角ですから頂きましょう。」

私は彼女の持ってきてくれた膳を受けとると、箸を取った。

「…いただきます。」

「はい。」

本当に此処は静か過ぎる…。
静か過ぎて一人の時はそれなりに思い深める事も出来て自分の性には合っているとは思うのだが…。

私はチラリと横目でそこに座る雪村くんを見る。


―こうして他人といる時のこの場所は酷く居心地が悪いですね…。


「あの…山南さん。私がいるとその…召し上がりにくいでしょうか?」

私の視線を感じたのか、彼女は急に遠慮がちにそう訊ねて来た。

「ふっ…これはすいません。別にそういう訳ではないのです…。しかしこういう生活をしていると、なんと言うか…誰かといる空間が少々苦手になるのですかね。妙に落ち着かなくなるのです。」

貴女のせいではないですよ。と、最後に僅かに付け足して、再び私は夕餉の味噌汁を口にした。

「…あ、あのっ!!やっぱり私、戻りますね!!」

気を遣わせてしまったのか、彼女は勢い良く座を立ち上がった。

「雪村くん。」

「ゆっくり召し上がって下さいね!!食べ終わりました膳は外に置いておいて下さい。取りに来ますから!!」

「雪村くん!!ちょっと待って下さい。」

慌てて退散しようとする彼女を見て何故か私は…。





「…山南…さん?」





―どうしてだろう…。





―どうして私は…去り行く雪村くんの手を掴み引き止めてしまったのだろう…。
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