新選組色恋録
□鬼灯祭の夜
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「総司。そんなところで何をしている?」
暑い夏の日、僕は縁側に腰かけて何をするわけでも無く中庭を眺めていた。
そこかしこから聞こえる蝉の鳴き声に紛れて、巡察から戻ったばかりと見える一くんに声をかけられた。
「あ〜一くん。巡察終わったの?今日、暑いよね。」
僕がお疲れ様と労うと、一くんはそのまま僕の隣に座った。
「ちょっとね、考え事してたんだ。」
「考え事?この様な暑い場所でか?」
一くんは怪訝な顔をする。
「あはは。そうだよね。こんな暑い場所じゃあいい考えも浮かばないか。」
僕は軽く笑い飛ばすとふと気になって一くんに訊ねた。
「一くん、一くんは今年の鬼灯祭、鬼灯を送る相手いるの?」
「鬼灯祭?」
問われた意味をいまいち理解していない一くん。
―あぁ…やっぱり聞く相手間違っちゃったかな。―
僕はそう思いながらも、既に切り出してしまった会話を無下に切る事も出来ずに鬼灯祭について語り始めた。
「一くんも名前くらいは聞いた事あるでしょ?毎年この季節になると男が鬼灯祭の夜を一緒に過ごしたい女の子に鬼灯を送るあれだよ。」
すると一くんも思い出した様にああと、声を出した。
「鬼灯を送られた女子は、祭の夜までにどうするかを決断し、もし共に祭の夜を過ごす事を受諾した場合は男の部屋の前に吊るされた提灯の灯を消して部屋の中に入り…。」
そこまで言った一くんは急に、はっと表情を変えて黙った。
その顔を目にした僕はふっと口角を柔らかく上げる。
「契りを結ぶ…?」
そして一くんが言葉にするのを躊躇った続きを僕が口にすると、一くんは耳まで真っ赤に染める。
「なっ!?」
「一くん、そんな隠す事じゃないじゃない?みんな知ってる事なんだし。」
僕がそう言うと、一くんはそういう問題ではないと酷く焦った様子で言った。
「総司。お前はもう少し恥じらいを持て。」
軽く咳払いをしつつ言った一くんに、僕は改めて質問する。
「ねぇねぇ。それでさ、一くんは今年誰かにあげるの?鬼灯。」
質問を蒸し返された一くんは、それでも答えにくそうに答えてくれる。
「…俺は…その様な女子はおらぬ故…。」
「ふ〜ん。」
「そ、そう言うお前こそどうなのだ?総司。」
「ん?僕?僕はね、いるかな。あげたい子。」
そう答えると一くんの瞳が驚きを含んで僕を見る。
「ははっ♪驚いた?」
「お、驚くも何も…。」
「だよね♪僕ね、千鶴ちゃんにあげようと思うんだ。」
僕がそう告白すると、一くんは更に驚いた様だった。
「千鶴…に!?ば、馬鹿な!!」
一くんがそういう顔をするのは予想がついていた。
だって僕が口にした名の女の子は
到底僕の腕の中に堕ちる様な子じゃないって
誰もが思っているんだろうから…。