新選組色恋録
□平助の初恋
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男には誰にでも一つは秘密事ってもんがあるっ!!
…と俺は思う。
捨てようと思っても捨てられない思い出。そういうもんがあるっ!!
…と俺は思う。
そんな俺の封じていた淡い思い出がこんな形であいつに…。
千鶴に開けられてしまうなんて思ってもみなかった。
男ってのは何とも馬鹿な生き物で。
こいつが一番と思っていても、忘れられない刹那の淡い恋心を手放せない。
それでも俺はこいつにとって〃一途な旦那〃でいたかったんだ。
長きの戦が終焉を迎え、俺と千鶴は二人、静かに新しい時代を生きていた。
「平助くん。今日も帰り遅いの?」
「おう!!そうだな。ちょっと遅くなる。」
「そっか…。」
出掛け際にそう会話を交わすと僅かに千鶴は寂しそうな顔をした。
―うぅぅ〜。可愛いかもっ!!―
俺はそんな千鶴が可愛くて思わず彼女の唇に口付けを落とす。
「平助くん…。」
赤らんだ顔で俺を見詰めながら唇に手を当ててる千鶴。
―あぁぁあ!!もうっ!!どうしてこう可愛いんだよ!!千鶴はっ!!出掛けらんなくなっちまうじゃん!!―
俺は半分身悶えしながら家を出る。
「行ってらっしゃい♪」
笑顔で手を振る千鶴。
そう。
俺が家を留守にしたこの空白の時間が、俺を〃一途な旦那〃から突き落とす始まりだったのだ。
「さぁてと♪平助くんも行っちゃったし、今日はお部屋の大掃除でもしよっかな♪」
今日はとても天気がいい。
大掃除をするにはうってつけの日和だった。
平助のいなくなった部屋は妙にガランとしていて静かだ。
千鶴はその寂しさを掃き消す様に、部屋の掃除を始めた。
掃除と言っても今日は大掃除。
いつもは中々手を出せない場所にも今日は頑張って手を伸ばす。
「う〜ん…。何かあの奥の方にまだ葛籠がある様な…。」
千鶴は押入の上の小さな収納の奥にある葛籠見つけ、何とか手を伸ばし取り出そうとする。
「もう…ちょっと…。」
少しずつ葛籠との距離が縮まる。
「やった!!…き、きゃあ!!」
千鶴の手が葛籠に届いた時だった。
足台がグラグラと揺れ、千鶴は尻餅をついて畳に落ちた。
バサバサバサッ!!
「…いったぁぁい!!」
倒れた千鶴の上に葛籠が中身を撒き散らしながら落ちてきた。
「もうっ!!」
千鶴は痛むお尻を擦りながら落ちてきた葛籠の中身を一つ一つ拾い上げる。
すると…。
「あれ?…この手拭い。」
平助の葛籠だったのか、沢山の男物の衣類が畳の上に散乱していた。
そしてその衣類に紛れて不似合いな程可愛らしい花柄の手拭いが一枚顔を出したのだった。