新選組色恋録
□鬼の懐中時計(土方歳三編)
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「その懐中時計…お前に預けてやろう。語り伝えを信じてその力を使うのも使わぬのもお前次第だ。」
ではな。と風間さんは静かに吹いた風にその身を消した。
私は手中に残され鈍く輝く塊を見つめながらあの人の顔が頭を掠めた。
「土方さんはどう思うのだろう…。」
独り言とも判らぬ言葉が口を突いてでたが、それも次に吹いた少し強めの風に掻き消されたのだった。
「何だと!?風間が現れた!?何故その時に誰か呼ばなかった!!」
次の日、前夜の一連の事態を告げると、思っていた通りにその人物は至極、不機嫌な面持ちで声をあげた。
「まぁまぁ土方さん、とりあえず良かったじゃないですか。彼女、無事なんだし。」
怒声の前にただただ正座で縮こまる私の代わりに横にいた沖田さんが飄々とそんな口を挟む。
それが余計に気に障ったのか、土方さんは更に眉間に皺を寄せた。
「そういう問題じゃねぇ。こいつには自分が狙われてるって自覚が足りねぇ。…大体総司、お前はなにやってたんだ。昨日の見張りはお前の一番組だったはずだ。こんな簡単に要の屯所に入り込まれるような警護なんざこの先思いやられる。」
そして何故か火の粉は昨晩の見張り番だった一番組組長の沖田さんへと飛び火してしまった。
「あの…沖田さんは何も…」
「お前は黙ってろ!!」
何も非は無い。
そう伝えようと口を開いた瞬間に既に一喝されてしまう。
「やだなぁ土方さん。そんなに眉間に皺寄せてたら、どっちが鬼かわかりゃしないなぁ。これで夜だったら僕、間違えて土方さん切っちゃうかもしれませんよ?」
……強い……。
こんな土方さんを前にしても尚、萎縮一つせずに茶化してるともとれる軽口を叩ける沖田さんがある意味一番最強と思う時がある。
土方さんもこれ以上のやり取りは無意味ととらえたのか、大きく溜め息をついて、視線を私に戻した。
「で、あいつは何をしに来た?」
投げられた本題に私は慌てて例の懐中時計を差し出す。
「何だそれは?」
不審極まりないと言わんばかりの表情で、懐中時計を睨む様に見る土方さん。
私は懐中時計を預かる事になった経緯を順序立てて話した。