新選組色恋録

□鬼の懐中時計(土方歳三編)
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「あはは。まさか未来に行けるとはね。あの鬼、そんな夢物語的な事信じる様な奴だったんだ?」

これは可笑しいと腹を抱えて笑う沖田さんに私は言った。

「で、でも。あの風間さんがまさか冗談でそんな事伝える様には思えないです。」

「そうだな、まぁ確かに夢物語みたいではあるが、そもそも風間の。鬼の存在すら俺達にとって夢物語みたいなもんだとも思うしな。でも現実に鬼は存在している。その夢物語の鬼が、夢物語みたいな懐中時計とやらを手渡したのであれば、強ち信憑性が無いともいえねぇな。」

そう腕組みをする土方さんを少しの間黙って見ていた沖田さんは、不意に驚く様な事をサラリと言う。

「土方さんがそう思うなら使ってみればいいじゃないですか。使えばわかるでしょ?夢物語か否か。」

何やら楽しい玩具を与えられた子供の様に、沖田さんが土方さんにそう言った時、ガラッと部屋の襖が開いた。

「山南さん!!」

山南さんは立ち聞きするつもりはなかったのですが、と前置きをしながら、私達の和の中に入り腰を下ろす。

「土方くん、私からもお願いしますよ。よもや、羅刹の研究も行き詰まっています。このままでは羅刹化した隊志は狂うばかり…。未来に行けば何かそれを抑する方法が見付かるかもしれない。新選組存続の為にもこの夢物語、乗ずるに損はありませんよ?」

山南さんの眼鏡の奥の瞳が僅な希望をたたえているのがわかった。
それを聞いて土方さんは一瞬思案巡らせた様子だったが、次の瞬間何かを決意したかのようだった。

「わかった。山南さんの意見も一理ある。もしかしたら何かいい方法が見付かるかもしれない。でも何があるか危険だ。ここは近藤さんは動かせない。副長である俺が行こう。」

確かに。仮に夢物語でなかったとして未来に行けたとしても身の安全の保証はなかった。土方さんは何か事あった場合は、捨て駒になるつもりだ。

「わ、私も行きます!!」

思わず叫んでいた。

「千鶴くん…何を…これは遊びではありません。何があるか私達も全く想像がつかないのですよ?その様な場所に女子である貴方を行かせるなど…。」

山南さんと沖田さん、そして当事者である土方さんも驚愕の面持ちで私を見ている。しかし私の決意もまた固かった。そんな不安定要素の多い場所に土方さんだけを行かせる訳にはいかない。いや、行かせたくなかった。

「これは元々私が風間さんから預かった物です。私を連れて行って下さらないなら、私はこの懐中時計をお貸ししません!!」

きっぱりといい放つ私に山南さんはまだ何か言いたげに口を開こうとするが、土方さんがそれを制した。

「…わかった。お前のその気概。今回は、かってやる。でも行くからには覚悟しろ。俺にとっても未知の世界だ。ここと勝手が違う。お前を守りきってやれる保証はない。」

「わかってます。自分の身は自分で守ります!!」

意気込んで自分の胸を叩くと、沖田さんが笑った。

「僕や一くんはさておき、平助にも勝てない君が自分の身は自分で守るとは根拠の無い自信って君みたいな人の事言うんだよ。」



斯くして土方さんと私は次の満月の夜を待って未来に赴く事となった。
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