新選組色恋録
□陽月の焔・壱(斎藤side)
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総司と千鶴が視界から消えるのを確認した俺は、もう一度沸き起こった雑念を掻き消す為に刀を振るった。
しかし俺の振るう刀の軌跡には、怒りと動揺と焦りと…散り散りな想いが交錯してぶれが生じていた。
「…女一人に情けないものだな。」
心揺すられる原因が何であるのかなど、とうに己自身見きっている。
原因はただ一つ。
あの夜、土方さんと総司と共に市中で拾った行き場を失くした迷い子。
雪村千鶴。
俺は何時の頃からか、あの迷い子に心を揺すられる様になっていた。
気付いた頃には手遅れで、どうにも押さえられない程に彼女に対する恋心は大きくなっていた。
かと言って、俺は先程の総司の様に自分の感情を素直に表に晒け出すという事が苦手だ。
そんな俺には自然に千鶴に話しかけ、触れる事の出来る総司が羨ましくも妬ましくもあった。
「全く…嫉妬など、武士として己が恥ずかしい。」
誰も居なくなった中庭で、俺は何ともなく一人呟いて、溢れる嘆息と共に愛刀・鬼神丸を鞘に収めた。
…今の俺にはこの刀の名に相応しい鬼神の様な振りは出来ん。
放浪する心で愛刀を振るってしまった己を恥じた俺は、そんな自分を糺すべく、水に当たりに井戸へと向かった。