新選組色恋録
□鬼の懐中時計(原田左之助編)
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「その懐中時計…お前に預けてやろう。語り伝えを信じてその力を使うのも使わぬのもお前次第だ。」
ではな。と風間さんは静かに吹いた風にその身を消した。
私は手中に残され鈍く輝く塊を見つめながらあの人の顔が頭を掠めた。
「原田さんはどう思うのだろう…。」
独り言とも判らぬ言葉が口を突いてでたが、それも次に吹いた少し強めの風に掻き消されたのだった。
次の朝早く、私は玄関の掃除をしていると、夜の巡察を終えた十番組の面々が、ぞろぞろと群れを成して帰ってきた。
「おかえりなさい。」
私が箒を片手に話しかけたのは、その群れを指揮する十番組組長原田左之助だった。
「おお。千鶴。おはよう。朝から精が出るな。」
そう言って大きな手で頭を撫でてくれる原田さん。
多分子供扱いなんだろうけど、私は原田さんのこの優しさが好きだ。
「はい!!頑張ります!!」
原田さんは優しく笑みを浮かべると隊のみんなに続いて行こうとする。
その時ふと私の中に、昨夜の事が頭に浮かび、原田さんを引き留めた。
原田さんなら相談に乗ってくれると思ったのだ。
「あの。原田さん、ちょっとお話聞いて貰っていいですか?」
「ん?ああ、いいけど?どうした?」
一度行きかけた体を私の方に戻しながら原田さんは聞いてくれた。
「…実は。」
私は昨日一連の出来事を原田さんに掻い摘んで話した。
「そりぁあまた…すげぇ現実離れした話だなぁ。」
原田さんは私の話を聞いて何とも受け止めがたい顔をした。
「でもまぁ、お前がここに来てからそんな夢物語りいくらでも見てきたし、毎日非現実な羅刹達と生活してる俺達だしな。理解出来ねえ訳でもねぇよな。」
そう言って原田さんは私の言葉を受け入れてくれた。
「でもこれはお前個人の問題にしてはちょっと問題が大きすぎる。どちらにせよ、局長、副長の判断がいる問題だと思うぜ?」
原田さんの言葉を聞いて自分でもやっぱりそうかと納得する。
確かに私一人で判断していい問題ではない気がする。
「…ちょっと待ってろよ。俺もまだこんな格好だし、着替えてくるわ。これからみんなもまだ飯だろ?みんなが落ち着いた頃に少し話持ちかけてやるよ。」
見ればまだ原田さんは巡察帰りの浅葱の隊服だ。
「あ、す、すいません。引き留めてしまって。」
すると原田さんがその浅葱の隊服の襟元を少し掴んでニッと笑った。
「…千鶴が着替え手伝ってくれるなら早いんだけどね。」
その瞬間自分の顔が酷く高潮していくのが解った。
その様子を見て原田さんは大きく笑った。
「あはははは!!冗談だよ冗談。」
「し、失礼します!!」
私は原田さんの顔を見ることができなくて、急いで背を向け早足でその場を去った。