新選組色恋録
□鬼の懐中時計(藤堂平助編)
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「その懐中時計…お前に預けてやろう。語り伝えを信じてその力を使うのも使わぬのもお前次第だ。」
ではな。と風間さんは静かに吹いた風にその身を消した。
私は手中に残され鈍く輝く塊を見つめながらあの人の顔が頭を掠めた。
「平助くんはどう思うのだろう…。」
独り言とも判らぬ言葉が口を突いてでたが、それも次に吹いた少し強めの風に掻き消されたのだった。
明くる朝。
私がお勝手を通り掛かると、物音が聞こえてきた。
あ、今日の炊事当番は確か平助くんと永倉さんだっけ。
ひょこっと覗くと二人は仲良さげに…と言うと少々語弊があるかもしれないが、お互いのやり方に文句をつけながらも朝餉の準備を進めていた。
「ああっ!!新八っつぁん、それそんなに塩入れたら駄目だってば!!」
「馬鹿野郎!!これが男の料理ってやつなんだよ!!お前も人の事とやかく言ってねぇで、ちゃんと釜見とけ!!」
とても今日の朝餉は期待出来ないなと思いながら顔を引っ込めようとしたその時。
「あっ!!千鶴。いいところに。」
…捕まった。
ピクリと肩を無言で跳ねさせた私に平助くんは満面の笑みを向けてくる。
「新八っつぁんじゃ話になんないんだよ。お前も手伝ってくれよ。」
「んだと!?平助!!俺様のどこが話になんねぇってんだ!!」
「もうっ!!ちょっとやめて下さい二人共!!」
血気みなぎる永倉さんが平助くんに絡むのを間に入って止める。
カンカラン…。
二人の仲裁に入った私の懐から、昨日風間さんから預かった懐中時計が転がり落ちた。
「なんだこりゃ?」
拾った永倉さんが訝しげに懐中時計の紐を摘まみ上げた。
「それは…。」
結局話は長くなるが、話さずを得ない状況になってしまい、私は昨夜の出来事を二人に話した。
「おい。そりゃ一大事だぜ?」
「そんな話本当にあり得るのかよ。」
二人共私の話を聞いて各々に驚きの反応を見せた。
「取り敢えず…土方さんに言わなきゃな。平助?」
永倉さんがポンッと平助くんの肩を叩いた。
「はぁっ!?何で俺なんだよ。新八っつぁんが言えばいいだろ〜!?」
「馬鹿っ!!昨晩鬼が侵入しました。懐中時計頂きました。それがなんと未来に行けるらしいです。なんて言ったら何て言われるか…。『頭でも打ったのか?松本先生に診てもらえ。』って言われるのが落ちだ!!まだ平助の方が聞いて貰えるだろうが!!」
「ひでぇよ新八っつぁん。こういう面倒な事ばっか俺なんだもんなぁ。」
私がいる事も忘れて完全言いたい放題の二人に私は少し遠慮価値に口を挟んだ。
「あのぉ…。じゃあ私、自分で言うから…。」
そう言う私に平助くんは、うっと詰まった顔をする。
「ん、んな事お前にさせられないじゃん…。俺ら…聞いちゃったんだしさ…。」
「おっ!?んじゃあ平助に決定だなっ!!」
「ええっ!?」
「死番。よろしく頼むぜ。」
蒼くなる平助くんの肩を再度ポンポンと軽く叩く永倉さん。
…何だか…平助くんの優しさに無理矢理被せちゃった気もしないでもないけど…。
「ある意味、死番より怖ぇ〜じゃん…。」
平助くんが一人呟いた。