新選組色恋録

□鬼の懐中時計(風間千景編)
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「その懐中時計…お前に預けてやろう。語り伝えを信じてその力を使うのも使わぬのもお前次第だ。」

ではな。と風間さんは静かに吹いた風にその身を消そうとした。

私は手中に残され鈍く輝く塊を見つめながら風間さんを引き止めた。

「風間さん。」

彼は言葉無く足を止め、背中越しに次の言葉を待っている様だった。

「私と一緒に未来に行ってみませんか?この懐中時計で。」

その言葉に風間さんは流石に振り返り奇異の眼差しで私の真意を探る様に見る。

「…ふっ。何を言い出すかと思えば面白い事を言う。…新選組の籠の鳥であるお前から、よもや逢瀬の誘いを受けようとはな。お前はほとほと己の置かれている立ち位置を理解出来ていないと見えるな。」

「逢瀬の誘いではありません。」

風間さんの発言にキッパリと反論を返すと、それも風間さんにはどこか可笑しく思うのか愉快そうにククッと笑った。

「私はただ、あなたに新選組のみんなの事をこれ以上馬鹿にされたくないだけです!!あなたがそんなに私に現実を見て目を覚ませと言うなら、風間さんも一緒に未来に行って現実を見るべきです!!自分が見てもいない物を他人に押し付けるのはちがうと思います。」

すると風間さんは僅かにその赤眼を細め、私に一歩歩み寄った。

「…良かろう。お前がそこまで言うならばその誘い、乗じてやる。しかしお前がこの新選組の奴等をどこまで説得出来るか…。己の鳥と思っているお前を奴等がみすみす籠の外に放すとは思えん。」

「そんなの、やってみなくちゃわかりません。」

確信は無かったが、風間さんに啖呵を切った手前、引けなかった。
そして風間さんは更に口許を愉しげに歪め、言った。

「では次の満月まで時をやろう。その時までに奴等を説得し、晴明神社まで来い…。叶えば共に…。」

そう言い残して風間さんは今度こそ深い闇と流れる風に消えて行った。
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