雷門中学校探偵団部、IS団!

□T:IS団入団
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五月中旬。
今年度から雷門中学校に入学した一年生も、中学校のシステムに慣れ友達も多くなる時期だ。

「天馬は入る部活決めた?」
「うーん……まだかなぁ……。信助と葵は?」

放課後になって教室の窓際には、三人の生徒が話し合っていた。
一人は茶色の独特な髪型の少女、松風天馬。
もう一人は青い短めの髪の毛の少女、空野葵。
最後の一人はかなり小さめねサイズで頭に水色のバンダナを着けた少年、西園信助だ。

「あたしは吹奏楽部に入ろうかなぁ」
「僕は書道部に入ろうと思ってるんだ!僕、こう見えてやるんだよねー!」
「結構二人とも決めてるんだぁ……」

天馬ははぁ、とため息をついた。
雷門中学校では部活の部員募集は、五月の下旬から行われる。
それぞれが思い思いの部活に入り、青春を楽しむ。
大体の生徒は部活をしている様子を伺ったり、先輩の雰囲気を見たり、人伝でどんな部活かを聞いたりして自分の入る部活を決める。
しかし、天馬は「これに入りたい!」という部活はなく、どうしようか悩んでいるのだ。

「まぁまだ決めなくても大丈夫よ。たくさん部活はあるんだから」
「そうだよ!ゆっくり決めなって!」
「そうだね……」

三人は西日の当たる教室を後にし、昇降口へと向かった。
下駄箱を開けたところで天馬が「あ!」と声を上げた。

「どうかしたの?天馬」
「体操着教室に置いてきちゃった……」
「あちゃー……」

体操着の入った袋を机の横に引っ掛けておいたまま、教室を出てしまったのだ。
今日は金曜日である。
週末に持って帰って洗わなければ、さすがに女子としてもまずい。

「ごめん!先帰ってて良いよ!」
「ここで待ってるわよ」
「ほんとに帰ってて良いから!じゃあね!」

天馬は風のような速さで階段を駆け上っていく。
葵と信助はじゃあ帰ろうか、と下駄箱を後にした。



「あったあった!」

体操着はまるで天馬を待ち構えていたかのように、机の脇に掛かっている。
天馬は体操着を鞄の中に入れようと、チャックを開けた。
すると無造作に入れられた財布に気が付いた。
財布を鞄から取りだし開いてみると、中には1500円ほど入っていた。

「帰りに本でも買おうかな」

天馬はそう呟いて、ブレザーのポケットの中に財布をしまった。
よいしょ、と少し重くなった鞄を持ち上げ、教室を出る。
昇降口へ向かおうと歩いていると、後ろからタッタッタッタッと走ってくる音が聞こえた。
天馬はあまりそれを気にせず歩いていると、走ってきた生徒らしき人物が天馬のブレザーの中に入っていた財布をスッと抜き取り、去っていった。
天馬はそれを見逃さなかった。

「ちょっと!なにしてるんですか!」

天馬が全力疾走で走り出す。
しかし相手も天馬に劣らず、かなり足が速かった。
生徒が廊下をの角を曲がりそれを追いかけるように角を曲がると、生徒の姿はもうなかった。

「どっどうしよ……」

天馬は財布を盗られた。
犯人は学ランを着ていたため男子生徒と考えられるが、顔は全く見えなかったし見えていたとしても誰だかは全くわからない。
天馬は少しパニックになりながらも、職員室へと向かった。


「円堂先生……」
「松風、まだ学校にいたのか!どうしたんだ?」
「実は財布を盗られてしまって……」
「財布?」

天馬はさっきあったことを全て担任である円堂に話した。
円堂は新任の体育科の教師だ。
なかなかの熱血キャラでちょっとうざったいときもあるが、天馬はなかなか良い教師だと思っている。

「そうか……わかった、他の先生にも伝えておく。財布の柄とか教えてもらえるか?」
「水色のわりと小さめのです。ストラップとかは特についてません」
「ありがとう。早く犯人見つけないとな!」
「はい……よろしくお願いします」
「じゃあ気をつけて帰れよー」

天馬は失礼しました、と一礼して職員室のドアを閉めた。
下駄箱に着くと一人の制服をかなり着崩した少年が、なにやらぶつくさと言いながら靴を履き替えていた。
天馬はなんとなくその少年の雰囲気が怖く、静かに自分の下駄箱へと行った。
天馬は上履きを脱ぎながら少年の言うことが気になり、聞き耳を立てた。

「ふざけんじゃねーよ……人の財布盗りやがって……!」

少年はかなり怒っているようだった。
(あれ……今財布盗られた、って……?)
天馬はもしかしたら自分と同じように財布を盗られたのかと思い、勇気を振り絞って少年に話し掛けた。

「あっあの、もしかしてあなたも財布スられたんですか?」
「あ゛ぁ?」

少年は天馬の方を向く。
眉と眉の間には物凄い皺ができていて、少年の怒りを具現化しているようだった。
少年の気迫に少しよろめいたが、天馬は言葉を続けた。

「わ、私もさっき財布盗られちゃって……男の人に……」

天馬は先ほどのことを簡潔に話した。

「俺も似たような感じだな……」
「や、やっぱりですか……。一応先生には伝えといたんですけど……」
「お前、なんで敬語使ってんだ?」
「え?」
「俺、一年」

天馬は明らかに身長の高い少年を見て、先輩だと感じ敬語を使っていたのだ。

「あ、そうだったんだ!私、二組の松風天馬」

天馬は少年が同い年と聞いてなんだか心が軽くなり、いつも通りに喋れるようになった。

「三組、剣城京介」

少年、剣城は短く呟いた。


二人はその後すぐに別れ、天馬は真っ直ぐ家へと帰った。

「秋姉、ただいま」
「あら、遅かったわね」

秋姉と呼ばれたその人は、天馬に微笑んだ。
天馬の両親は仕事の関係上沖縄に住んでおり、天馬は親戚である秋姉こと木野秋に世話を見てもらっているのだ。

「実はお財布盗られちゃったりしてさ……」
「まぁ!先生にはちゃんと言ったの?」
「うん。でもなんの手掛かりもないから、ちょっと難しいかもなぁ……」

天馬はあーぁ、と先ほどとは違うため息をついた。




月曜日。
週末は何事もなく過ごすことが出来たが、やはり財布のことと少年のことが気になった。

「おはよう天馬!」
「おはよう葵」

朝のホームルームの前、席が前後の葵と挨拶を交わす。
なんの変哲もないただの日常風景。

「……ちょっと天馬元気なくない?」
「え?そんなこと……」
「ほら、やっぱりない。なんかあったの?」

付き合いが長い葵に隠し事は通用しない。
天馬は金曜日のことを話した。

「IS団に相談してみれば?」
「あいえすだん?」
「うん、相談乗ってくれたりとかする部活らしいよ。雷門中学校探偵団部。どうやって省略してIS団って言うのかは知らないけど。そこの部長が凄い頭良いらしくって、色々解決してくれたりもするらしいよ」
「へぇ……IS団かぁ……」
天馬は面白そうだなぁ、と思った。

「ホームルーム始めるぞー。席に着けー」

円堂が教室に入ってくると、さっきまで騒いでいたクラスメイトが席に座っていく。
天馬は後で三組でも覗いてみようかな、と考えた。



あっという間に六限後のホームルームも終わり、放課後となった。

「天馬、一緒に帰ろ」
「ごめん葵、ちょっとIS団行こうと思って……」

誘ってくれた葵には悪いがIS団というものにかなりの興味を抱いていた天馬は、今日早速行こうとしているのだ。

「そっか、気を付けてね」
「え?」
「結構変な人が集まってるって噂があるんだよねー……。多分大丈夫だろうけど」
「うーん……なんとかなるさ!」

天馬は笑顔でいつもの口癖を言って、教室を出ていった。
隣のクラスである三組に顔を出す。
つい先ほどホームルームが終わったばかりらしく、まだ多くの生徒が教室に残っている。
天馬が教室の中を見回すと、後ろの方の座席に鞄を背負ってまさに今帰ろうとしている剣城がいた。

「剣城!」

天馬が大きめの声で名前を呼ぶと、剣城はドアの方を見て松風か、と言った。

「お財布の犯人見つかんないねー……」
「あぁ」
「だからさ、IS団に相談に行ってみない?」
「IS団……?」
「相談とか乗ってくれるんだって!もしかしたら犯人見つけてくれるかも!」
「……俺は良い」
「え!?なんで!」
「そんな変な奴ら信用出来ないだろ」

天馬はうっ、と言葉に詰まる。
剣城はそんな天馬に構わず教室を出ていこうとするが、天馬がぎゅっと剣城の腕を掴んだ。

「一回!一回だけで良いからお願い!」
「だから俺は行かないって言ってるだろ……」
「剣城……お願い……」

天馬は剣城の袖の裾を両手で掴み、剣城を覗き込むように下から上目遣いで見てくる。
剣城はなんでほぼ初対面のやつにこんな思いをされなきゃいけないんだ、と思いながら天馬についていくことにした。



「ここがIS団の部室かぁ……」

雷門中学校は私立で迷路のように広く、二階にひっそりとあるこの教室を探すのには手間取った。
やっとのことで着いた教室の前で、天馬は入ろうかどうしようか悩んでいた。

「……入らないなら帰るぞ」
「はっ入るから!帰らないで!」

天馬がうぅ……とドアに手をかけようとしたとき、「なにか用?」と声が聞こえた。

横を向くとピンク色の髪の毛を二つに結わいた少女が立っていた。
天馬は剣城と顔を見合わせてからはい、と言った。

「じゃあ中入ってー」

少女はそう言いながらドアを開ける。

「神童!依頼人だぞー」

少女は見た目とは似合わない口調でそう言う。
神童と呼ばれたその人は本を読んで伏せていた顔を天馬たちに向け、いらっしゃい、と言った。

「一年か?」
「あ、はい!一年二組松風天馬です!」
「……一年三組剣城……」

神童はそうか、と二人に微笑み、ソファーに座るように促した。
部室は思ったより狭く、ドアを開けると奥に窓が見える。
手前には机、その両脇に二、三人が座れるであろうソファーが並んで縦に置いてあり、その奥には神童が座っている社長椅子と社長机のようなものがあった。
右の壁には押し入れのようなドアと「Informed Search」と書かれたポスターが、左の壁側には洗面台のような所と、ロッカーがある。
天馬はソファーに座ると、部室をぐるりと見回した。

「すまないな、こんなこざっぱりした所で」
「いえ、そんなことないですよ!」

ピンクの髪の少女が天馬と剣城の前の机に、湯気の立ったお茶を出す。

「あたしは副部長の霧野蘭丸。向こうで座ってるのは部長の神童拓人。どっちも二年だ」
「よろしく。ちなみに霧野は男っぽいが女だぞ」
「制服でわかるだろ」

霧野は二人の向かい側のソファーに座る。
神童は柔らかそうな黒い椅子に腰かけたままだ。

「で、今回はどんな用件?」
「実は、お財布を盗られてしまって……」
「あらあら……二人とも?」
「はい」
「いつどこで?」
「先週の金曜日に、私たちの教室の目の前の廊下です」

天馬に質問を繰り返しながら霧野はメモを取っていく。
剣城は腕と足をそれぞれ組んでいて、先輩の前とは思えない堂々とした態度だった。

「神童からも質問ある?」
「あぁ、いくつか」

神童は机の上に両肘をつき、口の前で指を組んだ。

「二人ともそれぞれ質問に答えてくれ」
「はい」
「………」
「財布を盗っていったやつは、どんな格好をしていた?」
「とりあえず……フードを被っていました」
「……紫の」
「では、二人の財布を盗った犯人は同一人物だと考えられるか?」
「はい」
「……恐らく」
「犯人はどっちの方向に走っていった?」
「確か一組の方から走ってきて、角を右に曲がりました」
「……後を追いかけて角を曲がったらもうそいつはいなかった」
「盗まれた財布の色や柄は?」
「水色のほとんど無地のです」
「…………く、黒……」
「ありがとう」

神童はにっこりと二人に笑いかけてから立ち上がり、霧野の隣に座った。

「俺の考えを話そう」



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