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駄目だぁ……ぜんっぜん頭に入らないよぉ……」

シュウはテーブルの上に両手を伸ばして項垂れる。

「数学なんて公式に数字を当てはめるだけだろう。
 一問でも解ければ頭に入る」

「その一問が解けないんだってぇ……」

白竜は今日何度目かも解らないため息を吐いて、
シャープペンシルをシュウの解いている問題に当てた。

「だからな、ここはχの二乗だからルートになって……」

中間三日前、シュウは白竜の家に押し掛け
数学を教わっている。
白竜は成績が良く、たかが中学一年の
定期考査と言えど、家庭科以外90点を
切ったことがない。
中でも得意な教科が数学なのだ。

「じゃあ……こう?」

シュウが可愛らしい丸字で書かれた答えを白竜に見せる。

「あぁ、合ってる。
 少しヒントを出せば出来るだろう」

「うん!ありがとう白竜!」

シュウはえへへーと無邪気に笑う。
解く時間こそ長く掛かるものの、
シュウは一問一問きちんと解けるようになっていった。

「次の数学は満点取れる気がするよー」

「まだプリントの半分も解けて無いだろ。
 それに理科は勉強しなくて良いのか?」

シュウは完全な文科系で
、理数系は全くと言って良いほど出来ない。
前回の定期考査は国語と社会合わせて182点、
数学と理科を合わせると49点だ。
シュウ自身は、
自分は高校では理数系をやらなくていい授業を選択する、
と言っているがこれでは高校自体危うい状況だ。

「理科は剣城に教えてもらってるから大丈夫!」

「……剣城に?」

シュウはにっこり笑い、白竜は驚いた顔をした。

「剣城ね、理科すっごい得意なんだよ!
 機械にも強くて、こないだ天馬に携帯の使い方とか教えてたなぁ」

シュウが楽しそうに話している前で、
白竜は不満げな表情を浮かべる。

「どうかした?白竜」

「……別に、なんでもない」

白竜はいつも冷たいが、更に不機嫌そうに返した。
シュウは頭の上にはてなを浮かべながら、
また数学の問題を解く作業に移った。

「……この問題も解んないや……白竜……」

シュウが白竜を呼ぶと、
白竜は鋭い目付きでシュウを睨んでから、
目を逸らして口を開けた。

「……理科なら、俺だって教えられる……つ、剣城に聞かなくたって俺が教える……」

シュウの目には、白竜の顔が心なしか赤くなっているように見えた。

「……もしかして白竜、妬いてるの……?」

シュウは白竜の顔を覗き込むように上目遣いをする。

「……妬いてない」

「妬いてるでしょー!
 白竜可愛いー!」

「妬いてない」

「もー頑固だなー」

「妬いてない!」

いつまでも笑っていたシュウに痺れを切らし、白竜は声を荒げた。

「ご、ごめんなさい……」

シュウは肩をすくめる。
白竜はすぐに逆上したことを後悔し、
すまない、と言いながらシュウの頭を撫でた。

「……まぁ確かに、俺より剣城を頼られるのは気に食わないな」

白竜は苦笑いをした。
シュウは俯き、今にも泣きそうな顔をしている。

「俺が悪かった。
 だからそんな顔しないでくれ」

「白竜のバカ……怖かったじゃん……」

「……すまない。
 こんなことで大声を出すなんて、俺もまだまだ餓鬼だな……」

手を組んで俯く白竜に、シュウはそんなことないよ、
と言って持っていたシャープペンシルを握り直した。

「その、さ、あんまりしょっちゅう白竜の家に上がるのも悪いかなぁ、って思ってて……。
 だから理科は剣城に教わるようにしてたんだ……」

そんな気遣いをしていたとは気付かず、
白竜はますます逆上したことを後悔した。
シュウはやっぱり白竜に教えてもらおっかな、
と微笑んだ。

「白竜に教えてもらったら、理科も100点取れる気がするよ」

「……そうか」

「これからは……っていうか、これからも白竜にいーっぱい頼るからね!」

そう言って笑うシュウの頬を撫でながら、
白竜は俺で良ければ。と笑った。


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