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□ちゃちちゅちぇちょ!
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「あれ?白竜は?」
ゴッドエデンで練習を繰り返している少年たちが朝食を食べている横で、シュウは見当たらないアンリミテッドシャイニングのキャプテンの名をアンリミテッドシャイニングの青銅に聞いた。
「そういえば今日は見てないな。快便なんじゃねー?」
「なにそれ……」
けらけらと笑いながら答える青銅に冷たい視線を送ってから、シュウはまだ食堂に顔を出していない少年の部屋へと向かった。少年、白竜が寝坊するなんてことは今までにはなかった。青銅の言う通り便所で踏ん張っているのかもしれないが、もしかしたら体調が悪くなってしまっているのでは。馬鹿は風邪を引かないと聞いたことがあるが、心配になってくる。シュウは急ぎ足で白竜の部屋へと足を進めた。
「白竜ー?」
白竜の部屋の前に着き、コンコンとドアをノックする。返事はない。シュウはもう一度白竜!とさっきより声を大きめにして言った。
「……ちゅうか?」
「ちゅ……?白竜!いるなら早く出てきなよ!」
カチャとドアが開く音がする。シュウは自分より少し背の高い白竜の顔があるであろう位置に顔をズイッと顔を出すが、白竜の顔が見当たらない。あれあれ?とキョロキョロすると下から「ちゅう」と呼ぶ声が聞こえた。シュウが下を向くと白と灰色の髪の毛が混ざった少年が立っている。そして口を開いた。
「俺が何をちたって言うんだ」
「えっと、ホントに白竜なんだよね?」
「あぁ」
ベッドの上にちょこんと座った少年に問うと、少年は首肯をした。確かに赤いつり目に白髪は白竜の物だった。
「どうしてこんなことになったの?」
「多分教官の実験がちぇいこうちたからだ」
「ちぇいこうって……どういうこと?」
「ちぇいじんだんちぇいの体力を使って中学ちゃっかー界でちゃっかーをちゅることが出来たら、ちゃっかーをよりちはいちゅることが出来るようになると考えたからだ」
「うわー聞き取りにく……。で、牙山教官に子どもの姿にされちゃったと……」
「ちょういうことだ」
どっからどう見ても四歳児くらいのサ行が言えない少年が、腕を組んで男らしく話している様子はかなり不思議であった。シュウはふわふわとした頭にどうしても手を添えたくなり、わしゃわしゃと白竜の頭を撫でる。白竜は少し目を開いてからシュウの手を叩いた。
「白竜酷い」
「中身は変わってないんだ。きやちゅくちゃわられたくはない」
「むーっ」
白竜は可愛らしく頬を膨らましたシュウを見て、こいつが小さくなれば良かったのに、と考える。すると白竜の腹の奥からぐぅーと虫が鳴く音が聞こえた。
「お腹空いたの?」
「ちょのようだな」
「じゃあ食堂行こっか」
「むむむ無理だろ!」
「なんで?皆喜ぶと思うよ。可愛いし」
「ぢぇったい嫌だ!」
「ぢぇったい……?」
「うるちゃい!」
シュウはきゃぁーと悶える。白竜は耳まで真っ赤にしてうつ向いた。そしてまた白竜の中の虫が唸る。
「とりあえずご飯食べに行こ?ね?」
「……わかった」
「なにこれ超可愛い!」
「これ馬路で白竜なのか?」
食堂に入ってこれが白竜だ、と言うことをみんなに伝えると、木屋と青銅が言った。白竜は極力関わりたくないのか四歳児の手つき(実際は四歳児ではないが)とは思えないほどきれいに箸を持って黙々と白米を食べている。
「そうなんだよねー。僕もびっくりしちゃったよ」
「なぁ白竜、牙山教官の目的の身体能力についてはどうなんだ?」
僕の後ろからヒョコ、と顔を出したカイがもちゃもちゃとご飯を食べ続けている白竜に問う。白竜はご飯から目を離し、カイを見上げた。
「今回はちんたい能力を保つことが重要なのではなく、一定の時間このちゅがたでいられることが重要なのだ」
「成る程。じゃあ身体能力はその姿相応のもの?」
「ちょういうことだ」
カイは手を顎に当てふーんと目だけを上に向かせた。カイとの短い会話に終わりを感じた白竜は、もう一度とご飯と向き合い食べ始める。実験のせいで口が小さめになってしまっている白竜は、ご飯一杯食べるのにも時間が掛かってしまうのだ。
「ってことはさ、やっぱり子守り必要じゃない?危ないし。ね、シュウ」
上を向いた小さな目がまた下に戻り、シュウの顔を見る。シュウは、はぁ?女子らしからぬ眉の形をし、白竜は箸を持ったままきょとんとしていた。
「ちょっと待ってよ、なんで僕に言うのさ」
「白竜の子守りって言ったらシュウしかいないでしょー」
「子守りなんかなくたって大丈夫でしょ」
「いや、大丈夫じゃないかもちれない」
相変わらずサ行の言えない白竜の声がする。
「いつ異常が起こるかも分からない、見張り役は必要だと思う」
「だったら青銅とかの方が良いんじゃないの?」
「シュウが一番お母さんっぽいじゃん。女の子だし」
カイの言葉に頷くアンリミテッドシャイニングとエンシェントダークのメンバー一同が頷く。シュウは額に手を当て盛大にため息を吐いた。
「まぁ俺は今日この部屋から出ないから、何かあったらたちゅけるぐらいの気持ちで大丈夫だぞ」
「じゃあ僕いらないじゃん」
「いらなくない。ちゅうがいれば俺はあんちんできる」
「そっかぁ……じゃあとことん子守り頑張ろうかな!」
「無理はちなくていいぞ」
「大丈夫大丈夫!任せといて!」
シュウは、でも午前中でこの疲労感はまずいなぁ……て考えながら、白竜のベッドに腰掛けた。小さくなった白竜はと言うと中学一年生用の数学の計算ドリルを出し、シャープペンシルを器用に使いすらすらと解いている。やはり四歳児が一次関数を解いているのは異様な光景である。することがなくなったシュウは白竜の本棚に手を伸ばし適当に本を取って読み始めた。
ゆっくりと目蓋を開ける。自分の下には柔らかなベッド、手には読みかけの本がついている。いつの間に寝ちゃったんだろう、と考えながらシュウは目を擦って体を起こした。白竜の部屋に邪魔して寝るということはよくあるので気にはしなかったが、今回ばかりは白竜の子守り役に無理矢理ではあるが抜擢された自分が白竜を放って寝てしまうというのはまずいことであった。
「白竜?大丈夫?」
「なにがだ」
白竜は机と向き合って本を読んでいた。ドリルはきれいに閉じられており、恐らく解き終わったのだろうと想像できた。姿は相変わらず四歳児のままである。
「寝息が聞こえたからまちゃかとは思ったんだがな」
「ご、ごめん……」
「あんちんちろ。俺は何事もない」
「ありがとう。今、何時?」
「ちち時だ」
「ち、ちち?」
白竜は本にしおりを挟みシュウの方を向いて小さな手で5と2を作り、ちち、ともう一度言う。シュウはあぁと頷いた。
「ってもう7時!?」
「ぐっちゅり寝ていたからな」
「嘘、嘘でしょ!?」
「うちょじゃない」
白竜はそう言って立ち上がり背伸びをしてカーテンを少しだけ開けた。もう星が輝いていて、正真正銘の夜だった。
「ホントごめん……」
「構わん。俺は風呂に入ってくるぞ」
シュウは先ほど「とことん子守り頑張ろうかな」と言ったことを思い出す。自分の発言には責任を持たなければならない。
「僕も一緒に行くよ!危ないだろうし!」
シュウは身を乗り出して言った。
「なな何を言ってるんだ!外見は四歳児でも中身は変わってないと言っただろう!」
「お風呂は危ないんだよ!溺れたりしたらどうすんの!それにタオル巻けば大丈夫でしょ!」
「大丈夫じゃない!」
「もーごちゃごちゃうるさいなー!さっさと行くよ!」
「おいちゅう!ちゅう!」
喚く白竜を抱き上げシュウは洗面所への向かった。
「よーし、僕がごしごし洗ってあげるからねー!」
「……あぁ」
抵抗をやめた白竜を椅子に座らせ後ろに膝立ちをしてふーんふーんと鼻唄を歌いながら、シュウはシャンプーを手に適量取り泡立てる。白竜は腰に、シュウは胸からタオルを巻いていて端から見れば仲の良い兄弟にも見える。白竜は最初はあんなに嫌々引き受けていたのにこのテンションの差はなんなんだ、とため息を吐いた。
「いっい湯っだなー」
髪の毛も体も洗い終わり湯船に浸かっている。シュウの足の間に白竜が入る形になっていて、ますます兄弟の様になってしまっている。
「なんか新鮮で良いねーこういうの」
「……あぁ」
「さっきから『あぁ』しか言ってない」
「あぁ」
シュウはもー、と頬を膨らます。
「もっと楽しもうよー。この状況を」
「楽ちめるか!」
「いっい湯っだなあ」
「髪の毛乾かしてあげるよ!」
「別に良い」
「まーまーそう言わずにー」
ドライヤーとブラシを二刀流で持っているノリノリなシュウが白竜の前で仁王立ちをする。白竜はもう逃げられないだろうな、と感じ黙ってシュウに促されるまま洗面所へと再び向かった。
「白竜の髪の毛温かーい」
「おい、まちゃかここで寝るつもりじゃないだろうな」
ベッドに潜り込み白竜の髪を弄るシュウに問い掛けると、え?駄目なの?とあたかも白竜の部屋で寝るのが当たり前かのような返事が帰ってくる。
「俺もあちゃには元のちゅがたに戻っているんだ。駄目に決まっているだろう」
「えーちょっとだけー」
「駄目だ。またどうちぇ寝てちまうだろう」
シュウはやだ!と言って白竜を抱き寄せる。白竜は胸を押し返そうとするが、シュウも女子であるため柔らかいそれがついていて容易に触ることは出来ない。白竜は流されるままであることに不満を抱きつつも、シュウの暖かさに少し安心もしていた。
「今日は楽しかったよ」
「ちょうか」
「お母さんの気分を味わえたよー」
「ちょれは良かったな」
シュウはえへへと笑いながら白竜と目線を会わせた。
「もう寝よう。あちたも早い」
「うん」
翌日シュウは元の体に戻った白竜を見て、絶叫したのは言うまでもない。
あとがき
初めてのリクエストでした……!
こんなんで良かったのか
心配です………笑
リクエストありがとう
ございました!