Coming closer

□in the air
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「ホントにいるのかよ」

相方に無理やり渡されたデジカメを手に、俺は今日何度目かわからないため息をついた。

「間違い無いって!ヒロリンがシークレットゲストで出るってのは確かな筋からの情報なんだから」

「確かな筋ってどこだよ」

眠い上に半信半疑で、俺は幼なじみの顔を横目で睨んだ。

「ヒロリン非公認ファンコミュニティ」

幼なじみは胸にキラリと輝くバッジ―当然女の子の顔写真入り―を誇らしげに俺の目の前に突きつけた。

「それってヲタストーカーの…」

「失敬な!我々はヲタではあるが断じてストーカーではない!厳しい規律と節度をもって、ヒロリンの行く先々で全力でヒロリンを応援するためにそのスケジュールのすべてを…」

「あ〜わかった、わかった」

果てしなくヒートアップしそうな奴の演説から逃げるために、俺はあわてて相づちを打った。

「にしても、ヒロリンねぇ…」

空高くそびえる杉並木の合間から微かに覗いている空に向かって、俺はもう何度目か数える気にもならないため息を吐き出した。





「な、頼む!ちょっと付き合ってくれるだけでいいから!」

アイドルヲタクの幼なじみに夜中に懇願されて、山深い、それでも歴史の深いこの古社についたのは今日の早朝。

なんでも今日行われる時代祭は2年に一度執り行われる、由緒正しい祭らしい。

中でもメインは、この地縁の歴史上の人物に扮した人々の時代行列で、毎年アイドルや俳優が参加することでも有名だった。

「っていうか、俺ヒロリンの顔判らねぇぞ」

「安心しろ、ヒロリンはオーラでわかる。俺も見つけたらケータイ鳴らすから」

ウキウキとハイテンションの幼なじみは俺の言うことなんか聞いちゃいない。

じゃあな、と手を振って、とっとと人混みの中へと紛れていった。





「何が『じゃあな』だよ」

俺はブツブツ言いながら、時計を見た。

時代行列が始まるまで優に4時間。

ついでにまだ夜も明けきらないうちに叩き起こされて、山道までも運転させられた。

直前まで所属を希望するゼミに提出するレポートでギチギチに缶詰になっていた俺は、すでに限界だった。

人混みの反対側に目をやると、そびえる杉並木の合間から日だまりが見えた。

人の流れに逆らってたどり着くと、ちょっといい感じに開けている。

芽吹いたばかりの下草はやわらかくて、射し込む陽射しは優しく俺を誘う。

俺はひとつ伸びをしてから、これ幸いとゴロンと横になった。

柔らかな陽射しをまぶたに受けながら、俺は睡魔の誘いに喜んで引き込まれていった。




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