Coming closer
□Feeling fine
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『その出で立ちでは人目を引きすぎるな。何ぞ着替えを探して参ろう』
そう言って、御前は屋敷のどこかへ入っていった。
俺は通された部屋でひとり、燃え尽きたフリースと自分の今の状況に頭を抱えていた。
車の免許を持っていない幼馴染みに拝み倒されて、朝日も明けきれない時間に家を出た。
時間が早かったせいもあるだろう。
都心から小一時間くらいのドライブで着いた目的地には、時代祭の準備に立ち働く人々と、この日のために掃き清められた立派な境内が確かにあった。
けれど。
日溜まりで昼寝を決め込んで目覚めた時には、世界が全く変わっていた。
細い山道。
深い山々。
水道も電気もない人々の暮らし。
着物、鎧兜、草履。
古めかしい言葉使い。
異質な俺。
「タイムスリップ…」
呟いて、その言葉の陳腐さに思わず苦笑いが漏れた。
使い古された感が否めない言葉。
でも、今の俺の状況を説明するには一番しっくりくる言葉。
「文系苦手なんだよなぁ」
俺の専攻が文系で日本史を少しでもかじっていれば、今の状況が少しはわかったかもしれない。
だからといって、元の俺がいた世界へ戻る方法が解るわけでもない。
今の俺は御前の申し出に甘えているしかない。
「腹、くくるしかないよな」
そう呟いたと同時に、襖の向こうから声をかけられた。
*