賜物

□窓の灯
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悲惨なニュースには事欠かないけれど、夜の闇に浮かぶ家々の明かりには安らぎを感じる。
勝手な幻想だとも思うが、それでも窓の明かりを見ると其処には“幸せ”が存在しているような気になる。

仕事に不満は無い。忙しさに閉口する事はあっても、人間関係に問題は無いし、この不況時に正社員という立場にも非常に感謝している。
自分が“幸せ”かどうかを問われれば、“幸せ”だと答えるべきなのだと思う。
贅沢を味わい尽くす事は出来ないが、それでも金銭的な不自由は無いし。
………恋人も、いる。喧嘩も多いが、別れたいとは思っていない。

ただ、時々虚しさのようなものを感じる。

もう少し若い頃は、生死の狭間のスリルや、誰よりも速くなる事でその虚しさを誤魔化していたものだが。今はそれがただの誤魔化しでしかない事を、知ってしまっている。
クスリのようなものだ。覚めれば余計に虚しさが増して、もっともっと自らを破滅に導く。
所詮、夢の中では生きていけないのだ。

この先に、何があるというのだろう。
恋人を愛しているが、子供が産めない。………いや、この場合、産むとすれば俺なのだ。産める訳が無い。
子供が無い夫婦だって十分に愛し合っていけるのだから、其処に拘ってはいけないのかもしれないが。
何時か、普通に嫁をもらって、普通に子供が出来て、苦労しながらも子供を育てて。一人立ちした子供達が、孫を連れて遊びに帰ってくるような、ささやかだけど平凡な人生も良いと思っていたのだが。
そんな普通の生活に程遠いような奉先が、まともな結婚をして。………生活は相変わらず波乱に満ちていそうだが。
普通に一番近かったはずの自分が、まともじゃない恋愛をしているなんて。
………何が起こるか解らないとは、よく言ったものだ。

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