Novel
□視線の先は、
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「白石っ!」
あの人が誰を見ているかなんて、
視線の先に誰がいるかなんて、
最初から知っていた。
あの人はいつも鬱陶しいくらいに笑っているけれど、
好きな人の―――部長の前だと数倍も増して嬉しそうに笑う。
そして、
部長が自分以外と喋っていたりすると、
切なそうに表情を歪める。
それは一瞬だけれど。
その一瞬を俺は何度も見ている。
あの人は、
謙也さんは、
部長に恋をしている。
親友として接してくれる部長に。
謙也さんの切ない、悲しい表情を、
俺は知っている。
何故なら、
同じ表情で俺は謙也さんを見ているのだから。
俺は、
謙也さんに恋をしている。
後輩として接してくれる謙也さんに。
でも、
俺の視線の先にあるのは
いつだって
謙也さんの後姿。