銀色王子と奴隷の少女

□銀色王子と奴隷の少女
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プロローグ

 スッと背筋が冷たくなるくらいの、途方もない孤独感。
 ヒトは強欲だ。
常に何かを願い、叶えばそれは途端に色褪せて見え、すぐに次を願う。おいてけぼりにされて一人、蹲るのは誰。
所詮願いはその程度で、ヒトにとってはただの付属品。本体にはなれっこない。
きっと僕も、生まれてくるまでが一番大切にされていたのだと思う。包装紙が立派なだけの、真っ白なおもちゃ。その包装紙さえもビリビリに破かれて、裸にされる。
生まれてきてしまえば足枷にしかならなくて。手持無沙汰にブラブラ持て余して、挙句の果てには、ポイ。放って軽くなった分、背負う方は重くなる。
結局放り出されたって消えることなんてできなくて、転がったまま残酷な世界を知る。望んで「僕」になった訳じゃないのに、「僕」を捨てるのはイケナイとヒトは口を揃えて言うのだ。
それだけのことなのに、尻込みしてしまう僕は臆病者なのかもしれない。
そんな感覚に苛まれたって、現状が変わるわけでもなく、何事もなかったかのように淡々と日々は過ぎていく。誰も、僕がこんなことを考えているなんて知らずに、チクタクと一定のリズムを刻む。リズムの音がどんなに滑稽でも、他人はそんなものを気にしていない。気にも留めていない。
中途半端な偽善者は、その喜びを押し殺して、「生きろ」というのだろう。自分より下がいなくなるのは、自分が下に行くことに他ならないから。そういう奴程、臆病者なんだ。
だからきっと、「僕」の苦しみが判るのか、成り代わってくれるのか、そう怒鳴ったら、目を逸らしてご機嫌をとるのだ。
真っ白なおもちゃに色を塗る人なんて、いない。
無責任な言葉をポンポンと紡いで、反論は認めない、従いなさい、反抗は悪だ、悪は排除せよ。自分のことが一番大事で、安全地帯から「僕」を眺めて、善人ぶった言葉を並べたてて満足する、ただの傍観者。煽り役。
そんなクセ者に捕えられた僕は、寿命が尽きるまで生き続けるしかないんだ。たとえそれが、本当の正解じゃないとしても。
 そもそも、正解なんてあるのか。そんな根本的なところからあやふやで、一体何を信じろというのだ。
 嫌じゃないか。祭り上げられて、期待に応えられなければ一人重石を持たされたまま。いなくなった人はすぐに僕のことを忘れてしまうのだ。
 重石なんて捨てて逃げてしまいたいのに、捨てようとするたびに見えてくる自分の醜い姿。怖かった。鳴いて叫んで拒んでも、いなくなってはくれない。終いには、偽善者がもっと重い重石を持たせて逃げて行くのだ。
 どんどん重くなっていく重石を捨てるのも諦めて、僕はただジッと堪える。もう苦しいのは嫌だった。解放される見込みがなくて、逃げだそうとするたび強く縛りつけられるのなら、終わりが来るまで静かに待とう。
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