歌の世界

□伝うメロディー
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春歌がプロとしてデビューし、パートナーである藍も戻ってきた。

ある楽屋の一室にあるソファーに座って台本を頭に入れている藍とテーブルと向き合ってる春歌。
ソファーから彼女の姿を見る彼は言葉を投げた。

「…春歌、どうかしたの?」
先程から作曲中の彼女が腕を休め、顔を傾げながら何度も空中でリズムを確認するがまたもや傾げる彼女に藍は聞いた。

「え…、あの、少しテンポが合わなくて…。」
「それって僕の新曲?」
「はい…。でもどうしてもおかしくて…」
今にも泣きそうな春歌に藍はため息をついた。

「いつも言ってるでしょ。僕を頼りなって…。僕でよければ相談乗るし話だって聞く。作曲の手直しだって手伝うって。」
ついたため息はけして鬱陶しいモノではなく彼女を心配する彼なりの表現の仕方。

「でも…私の仕事ですしこれ以上迷惑をかけるのは…」
「迷惑?そう思っていたら君とは付き合わないし、パートナーだって解消してるさ。ねぇ…春歌、休憩しようか。こっちにおいで」
シレッとした顔で、春歌を手招きした。
「はい」
ちょこちょこと来る彼女を愛しそうに見ながら彼女を膝に乗せた。
「で、どうして僕を頼らないの?」

「…これでも…私だってプロですし…」
「じゃぁ、こうしよう。君は僕を“彼氏”として頼って。“先輩”としてじゃなく、ね?それなら良いでしょ?」
同じ人間でも春歌は藍のパートナーであり、恋人。
「……はい」
小さくもハッキリと聞こえる肯定の言葉。
藍は満足そうに頷くと春歌を抱き締めた。

「ひゃっ!?あ、藍くん!?」
「なに?君は僕を“恋人”として頼り甘えるなら僕も君を“恋人”して甘えようかなぁってね」
文句あるの?と遠回しに言われているような気がして彼女は首を振ることが出来なく、顔を赤くしながら彼の肩に顔を埋めた。

「…愛してるの言葉じゃ足りないくらい君が好きだよ……春歌」
彼女の耳元で甘く、官能的に囁く彼は“恋人”としての“顔”をしていた。

「っ…」
台詞かと思いきや、自分に言われた言葉で、反応に遅れた。
どうすればいいのか分からなくて、ただ林檎のように真っ赤に染め上がった顔。
熱が下がるまで時間がかかるだろうが、それは藍だって知っていて確信してやってるのだ。
どうすれば、春歌がドキドキし自分しか見えなくなるのか。

「ふふ、どうしたの春歌。心拍数上昇してるよ?」
彼の肩に埋まっている顔を自分の前に移動させれば恥ずかしいのか目をギュッと閉じている。
「ねぇ…僕の目を見て?」
耳元で甘く囁けばピクッと動く春歌の体。
恐る恐ると目を開ける瞳には熱が隠(こも)っていた。
「あ、藍…君…」
至近距離にある彼の顔に羞恥心が込み上げる。
楽屋で、いつ誰が来ても可笑しくない場所で藍の膝に座っていて近距離で見つめ合っている。
顔を真っ赤に染め、藍の目を覗き込むように見た。

「なに?上目遣いして僕を誘っているの?」
「ち、ち、違いますっ!!」
「ふふ、冗談だよ」
クスクスと余裕の笑みが返ってくると羞恥心に耐えきれなくなった彼女は彼の方に顔を埋めた。


「一人じゃないって気付いてよ」
藍は静かに彼女の頭にキスを落とした。


ーーーー流れるメロディー、浮かんでくる音符たち。
彼女の頭には先程とは違いいろんなメロディーが頭に浮かんだのだ。

藍の唇から伝わるように……。



終わり
 

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