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□貴方が隣にいることに感謝を
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月が綺麗だと思う。
きらきらと輝く銀色の光を見るたび思い出すのは、今も求めてやまないあの酷く優しい銀色の男。
攘夷戦争時は恋仲という仲であったが、もうそんな仲に戻ることはないだろう。
そもそも自分にはもうその資格も傍にいる場所も理由もないのだから。
資格を得るには自分は汚れすぎてしまったし、『家族』というものが出来たあの銀色の傍に自分が入れる場所もなく、何より自分が未だに想われている筈もないので理由がない。
ここまで考えていてハッと自分が思っていた以上に、未だに執心していたのだなと自嘲する。
そんな自分の考えを払拭するようにグイッと手に持っていた盃を仰げば、後ろから声を掛けられた。
「おーおー、いい飲みっぷりだねえ」
「……銀時」
酒瓶を持ちながらにかりと笑う銀時に自分は微かに目を細めた。
「お前こんなとこで飲んでたのね」
「ヅラの野郎が酔ってたんでなァ、絡まれる前にこっち来たんだよ」
「…気付いてたのかよ」
早く言ってくれれば良かったのに、という銀時の言葉にピクリと反応する。
「…絡まれたのか?」
「おうよ、そりゃもうがっつ、り……?」
銀時が不自然に言葉を切る。気付けば自分は盃を持っていた手を銀時の腕へと伸ばしぎゅっと掴んでいた。
「高杉…?」
銀時に名前を呼ばれ慌てて腕を離す。そうして手持ち無沙汰になってしまった手をどうしようかと思案する。
(つうか俺ァ、馬鹿か…何、嫉妬なんざしてんだ)
我ながら女々しいと眼を覆うようにうなだれれた自分は、腕を掴んだ時に銀時がどんな顔をしていたかなんて分からなかった。
「…んだよ、」
「あァ?」
「なんで、テメーはそうなんだよ…!!」
いきなりキレだした銀時に自分は目を丸くする。しかしそんなの関係ないとでも言うように銀時は荒々しく言葉を吐き続けた。
「昔からそうだ!勝手に悩んで勝手に納得して俺に何も話さない…!何かあるなら言えばいいじゃねえか!!テメーの話を聞いてどうにかなっちまうような奴じゃねえんだよ、こちとら!!」
今まで溜めてきたものを全て吐き出すように銀時は声を荒げる。
「確かに最初にテメーから離れたのは俺だ…!けどなぁ、またこうやって酒飲み交わせるような仲に戻れて、ヅラや辰馬と馬鹿やれるようになって、テメーの傍に居れるようになって、俺ぁは嬉しかったんだ!!」
「…銀、とき…」
あぁ、この自分の目の前で眼に涙を溜めながら叫ぶこの男は誰だろうか。
こんなにも心から感情を露わにしている銀時を見るのは初めてかもしれない。
「今度こそ、傍に居ようと、もうテメーから離れないって決めたのに…!」
くしゃりと顔を一層悲しげに歪める。とうとう零れだした涙が銀時の顔を濡らした。
無意識に腕が伸びる。
そんなに泣くな。自分はお前の泣き顔が嫌いなのだ。
「どうして、テメーは離れてくんだよ…高杉ぃ…!」
無意識に伸びた腕はぽろぽろと零れ落ちる涙を拭って、ぎゅっと銀時を抱き締める。
「高、す…」
「…いいのか、」
銀時の言葉を遮るように口を開く。
「いいのか、また俺の隣でも…」
自分はもうお前の知るような奴ではないのに。
「…ばぁか」
けれどそんな自分の思いも見透かしたように銀時は笑う。
「いいに決まってんだろ…」
気づけ馬鹿、と小さく付け足す。
そんな悪態も愛しく思えてきて久しぶりに心から笑えたような気がした。
「銀と「やっとくっついたか貴様ら!!」
改めて名前を呼ぼうとした瞬間、聞き慣れた声が邪魔をした。
「「あ?」」
見れば桂がやっとか!などと呟いている。
「ちょっ!桂さん今凄くいい雰囲気でしたよ!?何、邪魔しちゃってんですか!!」
「無駄ネ、新八。この酔っ払いに何言ったって聞いてないネ」
「まっことヅラはKYじゃのう!あははは!」
「ヅラじゃない、桂だ!!」
桂に続き後ろから次々と残りのメンバーが顔を出す。一体どういうことなのだ、と混乱していれば桂が口を開き話し始める。
「なに、せっかく仲直りしたというのに貴様らがいつまで経ってもくっつかないものでな。坂本と新八くんやリーダーに事情を説明して今日の宴でくっつくよう協力してもらったのだ」
大成功だったがな!と誇らしげに胸を張る桂に銀時は叫ぶ。
「てんめぇえ!ヅラァアァアア!」
「ヅラじゃない、桂だ!!よし!こうなったら早速結婚式の準備だ!」
「何で結婚式ぃいい!?」
「ふはははは!銀時の白無垢姿!きっと先生も喜んでいるだろう!」
「人の話を聞けぇえ!!」
逃走しながら結婚式の企画を立てる桂を銀時は追いかける。そんな二人を余所に新八と神楽は高杉へと声を掛けた。
「あの、高杉さん…銀さんのことよろしくお願いします」
「銀ちゃん泣かせたらこの私が許さないからナ!覚悟しとくアル!」
強気な神楽と弁えながらも強い意志を持った新八。
「…だそうじゃぞ?」
そんな二人を愉しげに見る坂本は高杉へと問いかける。そんな挑発的な問いかけに高杉も口元を歪めながら答えた。
「わかってらァ」
そういって高杉は銀時の元へ足を向けた。
貴方が隣にいることに感謝を
(それから、お節介な昔馴染みと子供たちにも)
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