gift
□無自覚から自覚へと変わるとき
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攘夷時代
いつから好きになったのかなんて覚えてもないし皆目見当もつかないが、敢えて言うなればあいつが先生に拾われて暫くして自分や桂にやっと馴れてきた頃。
その日はたまたま家の使いで町に出ていて、頼まれたものを手に入れた帰り道。
空は橙色に染まっていて川の水面に映る夕日がきらきらと輝いていたあの土手に見慣れた銀色が座り込んでいた。
一人でしかも外にいるものだから珍しく思って声を掛けた。
どうしてこんな所にいるのだと聞けば『散歩』だという短い答えに自分は直ぐさま嘘だと感じた。以前よりは少なくなったとはいえ、この時はまだまだあいつの銀色を疎ましく思う人間も多く、そんな奴らから護るために外へと出掛ける時は先生や自分、桂などと一緒に歩いていた。
とにかくもう日が落ちると帰宅を促しあいつを立たせれば胸をぎゅっと押さえていて、気分でも悪いのかと尋ねれば、違うと首を横に振り、だったら何なのだと眉根を顰めると。
『……『家族』っていうのを見ると…胸が苦しくなる』
そう答えた。
その言葉を聞いたとき、あぁ何だお前は羨ましいのかと言葉を発した。
お前の家族は松陽先生だろうと言えば、あいつは先生とは血が繋がっていないとどこか寂しそうに呟いた。
そんなもの関係ないと自分はあいつに言って自分がお前の家族になってやると宣言してやった。
正直、自分はそんなことほんの数刻前まではこれっぽっちも考えてもなかったし、思ってもなかったが、反射的にこいつの傍に居てやらなくてはと思ったのだ。
宣言したあと改めて自分が言ったことを頭の中で反芻をしてみると、なんだかどうしようもなく恥ずかしくなってしまって、顔に集まる熱を誤魔化すようにあいつの手を握り帰路へとついた。
その時、ちらりと見たあいつの顔が無意識なのだろう。寂しそうな表情から嬉しげな表情へと変わっていて、あぁ言って良かったかもしれないと思わせたのだ。
あれから何かとあいつのことを気にかけ始めて、そんなことをしている内に無意識にあの銀色を目で追うようになっていた。
思えば、あれがきっかけだったのかもしれない。
坂田銀時という男を好きになったのは。
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