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□無自覚から自覚へと変わるとき
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雨だ。

空は曇天に染まり冷たい雫をひたすら流し続ける。けれど、けして耳障りではないと思うのは戦場で悲鳴や怒声、大砲の音や血が吹き出る不快な音ばかりを聴いているからなのか。それでも、酷く心が落ち着く空間だった。

あぁでも、自分にとっては酷く落ち着く音であってもあの男にとってはそうではないのだったっけ。

「高杉…」

そんなことを考えていれば思った通り。
どこか疲れたように自分の元へとやってきた銀色の男。

「…どうした、銀時ィ」

どうした、などと聞かなくとも分かっているが敢えて気付かないフリをする。きっと自分が分かっているとこの男が気付けば、もう自分を頼ってくることはなくなるだろうから。

いや、それとも自分が分かっていることに気付いていて、それでも尚ここに来ているのかもしれない。

どちらにしろ、自分を頼ってきてくれるのは嬉しい。気分がいい。

「ちと…寝れなくてよ、暫くここにいていいか…?」

「好きにしろ」

「…さんきゅ」

そういうと銀時は座っていた自分の背中に寄りかかり、はぁと息をつく。

どことなく顔色が悪い。寝れなくてとは言っていたがきっと寝れていないのはここ何日もなのだろう。早くに自分の所へ来ればいいのに変なところでこいつは遠慮する。

暫くするとすぅすぅという寝息が聞こえ、ちらりと後ろを見れば瞼を閉じた銀時の姿。
やっと寝たらしい。

少しでも寝やすいようにと起こさぬよう銀時の体を横にして頭を膝に乗せる。くしゃりと銀色の癖のある髪を撫でればくすぐったいのか少し体を捩った。

その様子が面白くてククッと喉を鳴らす。

こんな風に気を使って優しくするのは銀時くらいなもの。他の奴らなど知ったことではない。なのに当の本人はそのことに全く気付かない。

「…気付けよ、早く」

そう呟けば襖の開く音。視線をずらすことなく入り口で立っているであろう影に口を開く。

「なんか用か、ヅラァ」

「ヅラじゃない、桂だ」

予想通りの人物と返事に高杉はハッと一笑。桂はそんな高杉の反応には馴れたとでもいうように、余り気にせず高杉の膝で寝ている銀時を視界に入れるとやはり、と言葉を漏らした。

「…ここに居ったのか」

そう言うが桂は部屋に入ろうとはしない。入ってしまえばせっかく眠った銀時が桂の気配を感じ取って起きてしまうから。

けして銀時が桂に気を許していないということではないが、銀時は高杉の傍のほうが幾分か肩の力を抜いているのだ。

きっと無意識だろうが。

「姿が見当たらなかったのでな、坂本と捜していたのだ」

「そうかい、この通り今は眠ってらァ」

「そのようだな」

そう頷くや否や桂は踵を返す。

「銀時のことは任せたぞ、高杉。俺は坂本に見つかったことを報告してくる」

「おう」

短い高杉の返事を聞き桂は後ろ手に襖を閉めながらちらりと高杉の顔を伺っていた。
その顔は優しく和らいでいた。




「ヅラァ、金時は見つかったがか?」

「ヅラじゃない、桂だ。あぁ、やはり高杉の所へ転がり込んでいたわ」

「ほうかほうか、相変わらず金時は低杉がすきじゃのお」

「本人は自覚してないがな。まったく、早くくっついてしまえば良いのだ。あの二人は」

桂は疲れたようにはぁと溜め息を吐き、そんな桂を見て坂本も苦笑する。しかし、そんな二人だったがその瞳はどこか手の掛かる弟たちに困っているような優しげな兄の瞳だった。

「気長に見守るしかないぜよ。いざという時ば、わしらが背中押せばいいきに」

「…それもそうだな」

坂本の言葉に桂は眉根をよせながら口元を緩め、坂本もにかりと笑う。

早く
早く、幸せに。

兄たちはそのことばかり考えています。









無自覚が自覚へと変わるとき
(きっとそれは、そう遠くないことで)









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